宇宙混沌
Eyecatch

もろはちゃんのリボン [5/5]

「ここ」
 もろはが指し示した家には、もろはの苗字とは違う表札がかかっていた。
「今日はありがと」
「どういたしまして」
 竹千代は保護者から金を回収するのはやめた。ひらひらと手を振って、帰途に就く。もろははその背が角に消えるのを見送って、家を振り返った。
(もうおじさん帰ってきてる)
 怒られるだろうな。バクバクしている心臓を押さえながら、そろりそろりと家の中へ。
「おお、もろは、おかえり」
「ただいま……」
「いつも言ってるけど、出掛けるなら書き置きしといてくれよ。って、寄り道してたのか?」
 養父の鋼牙は夕飯の用意をしながら、もろはの制服姿を見て驚く。
「うん。ごめん……」
「ま、早く着替えて降りてこいよ。もう出来上がるからさ」
(何も言われなかった……)
 ほっとしたが、同時にもの寂しさを感じる。とにかく、言われた通り部屋に上がり、着替える。鏡を見て、脱ぎ着で歪んだリボンを直してから、階段を駆け下りた。
「赤ちゃんの写真見るか?」
「ご飯の後で」
 そういえば昼食抜きだった。今更ながら腹の虫が主張してくる。
「それより気付くこと無い?」
「んん?」
 鈍い。首を傾げたままの養父に、もろはは頭を揺らす。
「ああ! リボン! それ買いに行ってたのか?」
「貰った」
「誰に?」
「初対面の人」
「はあ?」
「それでさ、アタシ――」
 養父に何かをねだるのはそれが初めてだった。
「バイトか。ちゃんと学校行って宿題するなら良いぜ。一筆書いてやるよ」
「やった」
 皿洗いはもろはが引き受けた。
 働ける。お金を稼げる。何より、バイト先にいる間は、きっとこの家のことを考えなくて済む。
(それから、あいつにまた会える)
 それが一時[いっとき]現実から目を瞑るだけだとも、竹千代がバイト先でスパルタな先輩に変貌することも、この時のもろはにはまだわからなかった。

闇背負ってるイケメンに目が無い。