宇宙混沌
Eyecatch

もろはちゃんのリボン [3/5]

「お前馬鹿なんだぞ」
 少年は手芸店に向かう道中、少女の話を聞いて思わずそう溢した。
「第一この街は、中学生一人が野垂れ死ねるようには出来てないんだぞ。誰かが通報して補導されて家まで送られるのがオチ」
「……そこまで言わなくても」
「俺は見ず知らずの奴に金せびられてる立場なんだが?」
「ごめんなさい……」
 小さな体がますます縮こまっていく。少年は溜息を聞かれないように、ゆっくりと息を吐いた。
「用事が済んだら送ってやるから、とにかく付き合え」
 金だけ渡して、また妙な行動に出られても困る。それに、家まで送れば保護者からお金を返してもらえるかもしれない。
「……手芸屋?」
 もろはは少年が入っていった店の看板を見上げる。
「外で待ってるか?」
 もろはは首を横に振って、慌てて少年の隣へ。
「ミシンはやっぱり高いな。アパートだと近所迷惑だし……」
「裁縫するの?」
「お前はしないのか?」
「お前じゃない、もろは」
「変わった名前だな」
「よく言われる。お前は?」
「恩人をお前呼ばわりするな。竹千代だぞ」
「変わった名前」
「日本人らしいだろ?」
「日本人なの?」
「国籍も生まれも育ちもな。母さんは違うけど」
「ふーん」
 竹千代は針や糸や、もろはには何に使うのかよくわからない道具や材料を、てきぱきと選んでカゴに突っ込んでいく。
「たくさん買うんだな」
「その為に来たんだぞ」
「社会人?」
「高校生。バイトしてる」
「良いなー」
 もろはは思わず溢した。
「アタシも稼ぎたい」
 そうしたら、何度も何度も小遣いが足りているか確認してくる養父母達にも、心配をかけずに済む。
「……バイトすれば良いんだぞ」
 もろはの言葉は、お金が欲しい、ではなかった。身なりや、先程からの言動とも照らし合わせて、竹千代は薄っすらと事情を察する。
「へ?」
「中学生でも親とか学校とか、方々に許可を取れば小遣い程度なら稼げるぞ。俺だって校則じゃバイト禁止だけど、親に一筆書いてもらって働いてるんだし」
「それホント?」
「嘘つくメリット無いんだぞ」
「職場紹介して」
「お前しっかりしてるというか、ちゃっかりしてるというか……」
 竹千代は一通り必要な物を確保すると、セール品のワゴンを漁る。
「かわいー」
 もろはは袋詰されたビーズやら何やらを手に取ったが、無一文だったとすぐにワゴンに戻す。
「……バイト先、紹介してやっても良いぞ。後でLINE教えろ」
「スマホ持ってない」
「ガラケーは?」
「無い」
「……イエデンの番号で良いわ」
 竹千代はワゴンから端切れのセットを掘り出すと、カゴに入れる。
「もう一軒寄るぞ」

闇背負ってるイケメンに目が無い。