宇宙混沌
Eyecatch

もっとすごいこと [4/4]

 その日の夜。
「竹千代は、初夜はどうやってもろはのこと口説き落としたんだい?」
 竹千代はいきなり部屋に入ってきてそんなことを言った理玖を睨み、刀の手入れをしていた手を止めた。
「口説く相手が定まってから訊いてほしいぞ」
「それが決まったんだよなあ」
 不機嫌になる竹千代とは対照的に、理玖はすこぶる機嫌が良い。
「とわに返事を貰ったのですか?」
「ま、そんなところ」
 理玖は勝手に椅子に腰を下ろす。いつもの事なので、竹千代は特に咎めない。
「なら別に口説く必要もないのでは」
「それが、『男』は怖いんだって」
「意外なんだぞ」
「で、もろはのことはどう暴いたんだい?」
「初めはもろはの方が積極的だったんだぞ」
「ああ、参考にならないやつ」
「他の人に当たるんだな」
「お前しかおいらに友人はいねえよ」
 そう言われて、竹千代は少し嬉しくなるような、心配になるような。いや、友人の少なさにおいては人の事は言えないか。
「口説き方はともかく、初夜の心得なら教えられるんだぞ」
「教えてくれ」
「入らなくてもめげない」
「……入らなかったのか?」
「半分入れてやめた。俺も時間切れだったし」
「なるほど……」
「そっちはゆっくりやれば良いんだぞ。とわもろはよりも良く育ってるし」
(長く生きるし)
 最後の一言は、口には出さない。
「そりゃあね……って竹千代! お前何言って!?」
 まさか自分より早くとわの体を見たことがあるのか? と理玖は勘ぐる。二人の体格差は、脱がさずともわかるが。
「勘違いしないでほしいぞ。あと、理玖様だって今日、俺達のこと見てたんだぞ?」
「それは本当にすまねえ、とわ様が……」
「『万が一にでももろはに手を出したら、いくら理玖様でも許さない』。あれは今でも有効なんだぞ」
 竹千代の手の中で刀が光る。その刃に映るのは、賞金稼ぎというより暗殺者の顔だ。実際、竹千代の働き方としては後者の方が近かったのだが。
「肝に銘じてるよ……」
 理玖は逃げるように竹千代の部屋を辞す。廊下を歩いていると、とわもろはの部屋で何やら興奮気味に捲し立てている声が漏れ聞こえてきた。もろはが呆れて宥めている。
「だ~か~ら~。別に喉元過ぎれば何ともないって」
「で、でも~~~」
(おっと、おいらは聞かない方が良いやつですかね)
 賢明に察して、理玖は甲板に逃げる。昼間のことを思い出した。
『私、理玖のこと好きだよ! もう私の為に傷付いたりしないでほしいって思ってる。けど……』
 理玖は空を見上げる。満天の星空、という天気ではなかった。
「ま、でも、ちょっと雲がかかってるくらいなら、十分楽しめますかね」
 正直なところ、満点の答えなんて期待していなかった。寧ろ返事があることすら。
「木偶人形には……」
 言いかけて、やめる。胸に手を当てると、心臓が動いていた。
「いえ、おいらには、身に余る幸せ」
 ゆっくり距離を縮めていけば良い。竹千代だって三年近くかけての今なのだ。
(そうしていれば、まだおいらが知らないもっとすごいことが、あるかもしれやせんしね)
 理玖は今日、やっと開始地点に立ったのだと心に刻むと、星を眺めながら愛しい人の顔を思い出していた。

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