宇宙混沌
Eyecatch

もっとすごいこと [3/4]

(気の所為なんかじゃないよ……)
 とわは心臓をバクバク言わせながら、森の木の陰に座り込んでいた。隣には、同じく気まずそうな顔をした理玖もしゃがんでいる。
(今頃もっとすごいことになってるんだろうなあ……)
 事の発端は、とわの好奇心だった。このところもろはと竹千代が二人で船を抜け出しているのには気付いていた。何をしているのか気になってはいたが、とわは自力では海上の船から脱出できない。そこで理玖に山菜採りに行かないかと誘って、瞬間移動で連れてきてもらったのだ。
 もっと早くにその場から立ち去れば良かった。ただ、二人が唇を寄せている姿は、少女漫画のワンシーンみたいで心奪われて。
 その時竹千代の手がもろはのどこを触っていたかは、とわには見えていなかったのだった。だから突然もろはが竹千代を咥えたのを見て面食らい、更に竹千代に中を弄られて悦ぶもろはの声にも驚愕した。流石に居た堪れなくなって、理玖を引っ張って声の届かない場所まで逃げた次第だ。
(セックスって、本当にするんだ……)
 もちろん、学校で習ったから知識としては知っている。だけどそれはとわにとってはいつまでも夢物語のようだった。あっちの世界では、男を好きだなんて思ったことも無い。世の中の子供を持つ人全員がしたことのある行為の筈だが、草太パパや萌ママも、あんないやらしい事をしていたのかと思うと、生々しくて堪えられない。
(それももろはと竹千代が。もろはなんてこの前十五になったばかりなのに)
「り、理玖」
「はいっ?」
 理玖も想定外のことに戸惑っていた。いや、理玖の場合は竹千代がもろはを抱く為に船を抜け出していることは知っていた。だが今日この場所に来ている、とは知らなかったのだ。
(おいらはてっきり、とわ様があの時の返事をくれると思って……)
 先程もろは達もその話をしていて、とわの耳にも内容は聞こえた筈だ。だが、その後あんな激しいのを見せられたら、初心なとわの考えが変わらないとは限らない。
「あれ、赤ちゃんできちゃうんじゃないの?」
「授かればできますねえ」
「い、いいのかな」
「そりゃあ二人は夫婦ですから。祝言の代わりにまた宴を開いたの忘れたんですかい?」
「そ、そうだけど……」
(理玖に、私も理玖のこと愛してるよって言ったら、私も理玖とあんなことすることになるの? もろはは男の人が体の中に入ってくるの、気持ち悪くないのかな? それにあんな、舐めたりとか、見せたりとか……)
 もろはの嬌声が思い出されて、とわの下着も濡れた感覚がした。そんなつもりではなかったのに、興奮している自分に戸惑う。
(せめて健全なお付き合いの時間がほしい! もろは達、マジであの後その日のうちに婚約して、翌日には親に挨拶してたもんな……)
 その時犬夜叉と、駆けつけたもろはの養父・鋼牙が号泣しながら酒盛りしていたのを思い出して、なんとか興奮を鎮めようとする。
(途中で二人が喧嘩し始めて、お互いの奥さんに締められてたのは面白かった。うん、面白かったよ)
「とわ様?」
 折角意識が別の方向を向いたのに、理玖が声をかけてきて台無しにされる。放置していた自分が悪いのはとわも解っているが。
「あ、いや……。あの二人、結婚決めるの早くない?」
「と言っても、お互い事情があって、それが解決するまで竹千代が申し込まなかっただけですからねえ。約束したわけではなくても、実質もう何年も付き合っていたようなものでしょう」
「やっぱり戦国時代だと、男女のお付き合いって結婚前提なの?」
「ええ、まあ」
「そっか……」
(結婚しない人生や、結婚しても子供を持たない人生が認められ始めたのは、結構最近だしね)
「尤も、恋や愛で結婚相手を選ぶ方が少ないですがね」
「それもそうか」
 選べるだけマシなのだろうか。
「り、理玖は」
 それを訊いて何がどう変わるのだろう。それでも訊かずにはいられなかった。
「私とああいうこと、したいの?」
(なんて答えれば正解なんだ、これ)
 理玖は暫し考え込む。ここは素直になることにした。
「したいですね」
 それは生き物として当然の欲望だ。
(なんて、己の快楽や機嫌の為に、幾つも命を奪ってきたおいらが言って良いものか)
「……そうなんだ」
 とわが身構えたのを見て、付け足す。
「返事があるまでは待ちますよ」
「返事したらするんだ」
「そりゃあもちろん。……嫌ですか?」
 とわは答えに詰まる。
「って、まだあの時の返事もいただいていないのに、訊くのが早すぎますね。船に戻りましょう」
 とはいえ、抱き着かないと一緒に瞬間移動できない。
(ドキドキしてるのバレちゃう。あれ? 理玖もドキドキして……なんか当たってる)
 とわは下腹部に押し付けられた物から身を引く。
「すみません、おいらも男なんで。暫く歩きますか」
 理玖の方から身を離し、歩き出す。とわはその後ろをついて歩きながら考えた。
 抱かれるのは正直怖い。下腹部が触れただけで、うっすら寒気がしてしまった。中に入られたり、乱れた姿を見られるなんて、とてもじゃないが耐えられる気がしない。
(それって、私は理玖を愛してないってこと?)
 もろはも竹千代も、あんなに互いを求めているのに。
(理玖のことは好きだし、大切なんだけどな)
『普通に思ってること言えば?』
 もろはの言葉が頭をよぎった。
(言えば良いのかな。全部)
 それで理玖がどう出るかは、考えたって答えは出ない。
「あのさ」
 とわはその背に、思いの丈を包み隠さず打ち明けた。

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