宇宙混沌
Eyecatch

その返事なら何度でも [3/5]

 もろは達と別れて暫く歩いた頃、せつながとわに耳打ちした。
「もろは、竹千代と何かあったのだろうか?」
「なんで?」
「『男だから』意識して触らないようにしていた、という旨の発言があった。そもそもそれを意識したきっかけも気になるが、気にせず触るようになった理由が気にならないか?」
「確かに。え? 付き合ってるってこと?」
「そうかもな」
 二人は振り返る。目配せをして、尾行する事を決意する。
「あっ、でも、母上が心配しない?」
「確かに。よし、虫拳で負けた方が家まで走る」
「よっしゃ」
 とわが負けた。せつなは姉の戻りを待つ間、見失わない程度にもろは達を追うことにする。幸い、とわが来るまでその場で暫くもろはの両親や楓と話し込んでいた。
「あれ? 元に戻ってる」
「ああ。あの妖力は騒ぎになるようだからな」
「じゃあ、アタシ竹千代のこと送ってくるから」
「別に良いんだぞ」
「遠慮すんなって」
「どうせ村の外からは飛んで行くんだぞ~」
 もろはが竹千代を抱え上げる。二人は十分な距離を保って後をつけた。
 村を出て暫く歩いた時、竹千代が尋ねる。
「いつまで歩くつもりだ?」
「屍屋まで」
「は?」
 もろはは黙って道を外れると、竹千代の腕輪を引き抜いた。
「あっ、ちょっ」
 地面に転がされて、竹千代は足輪も取られる。再び人型になった竹千代をもろはが組み敷く形になり、尾行組は息を呑んだ。
「お前輪っか外すと勝手にこっちの姿になっちゃうの?」
「付けてた年月が長いから、今ちょっと上手く制御できないんだぞ。返せ!」
「やだ」
 もろはが上に伸ばした手を、竹千代も上半身を起こして追いかける。もろはは更に背を反らして、後ろに倒れた。今度は竹千代が押し倒したような形だ。
「……これ、見てて良いのかな……?」
「帰るか……」
 後学の為、感想だけ後で訊こう。双子達はそう決めて、その場をそっと離れる。
「じゃあ腕輪無しでも変化できるように頑張れよ」
 もろはは言うと、輪っかを懐の中へ。そこに入れられたら竹千代は手を出せない。舌打ちをして立ち上がる。
「力が暴走してるから飛行形体にも変化できないんだぞ!」
「だから歩こうって」
「お前が帰る頃には日が暮れてるぞ!」
「今日は帰らなくても良いよ」
 その意味が解らない竹千代ではない。溜息を吐いて、もろはに手を差し出す。
「今日は金持ってきてないんだぞ」
「売るつもりはねえよ。真面目に働けって言ったのお前だろ」
 もろははその手を取って立ち上がる。
「あの時止めてくれてありがと。おかげで大事な[ヤツ]に最初にあげられるからさ」
「それは良かったんだぞ」
 竹千代は白を切って、歩き出そうとした。もろはは離されかけた手を握り直して、それを止める。
「誰の事か解ってんだろ?」
「……解ってるけど、理由が解らないんだぞ」
「解んねえの?」
「うん」
「この鈍感」
「ハァ~?」
 眉間に皴を寄せて、竹千代が次の言葉を考える隙に、もろははその首に抱き着いて口を寄せる。
「好きだから好きに決まってんじゃん」
「いや理由になってないし」
「良いだろ細かい事は。据え膳食わぬは何とやらじゃねえのか?」
「そんな性急に言い寄られても逆に怖いんだぞ!」
「お前だっていきなり押し倒したくせに」
「あれは! 怖がらせようと思って!」
「なんで?」
「お前がすぐ体売るようになるんじゃないかって心配だったんだぞ」
「なんで竹千代が心配しなきゃいけないんだよ」
 なんで? 竹千代は答えられない。
 ただもう見たくなかったのだ。もろはが誰かに傷付けられた姿なんて。寄越されても何も嬉しくない憐れみの眼差しなど、竹千代はもろはに向けたくなかった。不幸な子供は自分一人で十分だ。
「竹千代もアタシのこと大事にしてくれたからだよ」
 頭一つ分低いところから、もろはが竹千代を見上げている。竹千代はもろはの額にかかった髪をどけると、そこに口付けを落とした。
「……それが返事?」
 もろはが問うと、竹千代が頷く。
「これなら何回されても良いな」
「そうか」
 竹千代は少し屈んで、もろはと頭の高さを合わせる。今度はその口を吸った。
 もろはが幸せになれるなら、竹千代はそれで良い。彼女が傍に居てくれなくても、反対に腕の中に居てくれても。

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