宇宙混沌
Eyecatch

その返事なら何度でも [2/5]

「最近仲良いよね」
 理玖が死んだ事以外は望んだ日々となったある日。とわは久々の四人揃った妖怪退治の帰りに、後ろを歩いていたもろはに言う。
「前は竹千代のこと抱っことかしてなかったじゃん」
 行きも帰りも、竹千代が送ってくれた。村の中は、もろはが竹千代を抱えて歩く。
「ああ……一応竹千代も男だし……」
 もろはは言葉を濁す。あの件以来、意識してしまって不必要に触れられなかったのだ。
 それでも自分達を心配して泣く姿を見たら抱き締めたくなって、そうしても何も起こらなかったから続けている。
「もう怒ってないんだぞ?」
 竹千代がもろはを見上げる。
「別に最初から怒ってねえよ。アタシから言った事だし」
「何の話だ?」
 せつなとわも首を傾げる。
「なんでもないんだぞ」
「それよりさ」
 あからさまに誤魔化した二人を、双子は怪訝な目で眺める。もろはは構わず続けた。
「もう身元がバレたって構わねえだろ。竹千代も人型で暮らせば良いんじゃ?」
「うーん、俺は別にどっちでも良いけど……」
「じゃあアタシは人型になってくれた方が良い~」
 言って竹千代を放り投げる。竹千代は着地すると、やれやれと肩をすくめて、手首に嵌った紅葉色の腕輪を外した。
 途端に漏れ出る妖気。左手のを外し、右手のを外し、両足首のも取ると、竹千代は人型に姿を変えた。
 前に立っていたとわの目と、狸の姿から引き継がれているくっきりとした目が合う。
「は? 私達より目付き鋭い人居たんだ???」
「完全な人型ではないか。竹千代、お前一体何者なのだ?」
「聞いて驚け。狸平の若君だぜ」
若君な」
「なんと。あの名家の」
 せつなが驚く隣で、とわは話についていけない。せつなが補足した。
「妖狸の世界での竹千代の立場は、犬妖怪の世界で言うと、私達の父上と同格と考えて良い」
「えっと、父上もどういう立場なのかイマイチよくわかってないんだよね……」
「とにかくすげえ奴ってことだよ」
 もろはの適当な説明に、竹千代は苦笑する。確かに血筋や妖力は変わらないが、今はもう若君ではなく、ただの一狸妖怪だ。
「しかし、今までよくその妖力を隠していたな」
「妖気を辿って追って来られると困るので、この腕輪と足輪で封じていたんだぞ。弥勒法師に作ってもらった物だがな」
「弥勒法師、なんでもできるのだな……」
 せつながしげしげと腕輪を眺める一方、とわは竹千代に詰め寄る。
「ていうか、そんなに強いなら一緒に戦ってくれたら良かったのに」
 そうしたら理玖は死ななかったかもしれないのに。言いかけて思い出す。理玖との付き合いは竹千代の方が長い。
 竹千代に彼の死を告げた時、竹千代は屍屋の奥に引き篭ってしまった。聞こえてくる嗚咽に耐えられなくて、三人だけで墓を作りに行ったのだ。
「妖力が強くても、戦で強いとは限らないんだぞ」
 竹千代は歩き出し、立ち止まったままのとわを追い抜く。双子達の家へと続く分かれ道で手を振った。
「今日は退治を手伝ってくれて、助かった」
「今度はもろはの借金返すの手伝うよ!」
「別に良いよ~」
 残り一両。それがあれば屍屋に通う理由になる。もろはが無意識に竹千代を見上げると、竹千代は首を傾げていた。
「お前本当に変わってるんだぞ」
「そうかな。まあ良いじゃん」
「「良くない」」
 背後から突然声をかけられて、二人は飛び上がる。振り向くと、そこにはもろはの両親が立っていた。
「もろは、いつになったら真面目に借金返すの?」
「ったく、帰りが遅いと思ったら色気付きやがって……」
 犬夜叉は竹千代を睨んだが、匂いで気付いたのか鼻を近付ける。
「なんだ、知らねえ男連れてると思ったけど竹千代か」
「竹千代です」
「あら、人の姿だと男前じゃない。ねえ、竹千代君からも言ってやってよ」
「はあ……」
 そりゃあ、娘が他人の借金を背負っているなんて、親からすれば気分の良い話ではない。
「そういえば、『雲影の氷剣』を欲しがっているお方が――」
「そやつ妖怪じゃぞ!」
 今度は何だ。声がした方向を振り向くと、山から帰ってきたらしい楓が鎌を振り上げていた。もろはが肩をすくめる。
「わかってるよ」
「竹千代なんだぞ……」
「おお、そうじゃったか。見知らぬ妖気を感じたものじゃから、つい」
「ったく、半妖と四半妖も居るんだから大丈夫に決まってるだろ」
 犬夜叉も耳をほじくる。
(これは、暫くは続きそうだな)
 竹千代は腕輪を嵌め直し、子狸の姿に戻る。
「戻っちゃうの?」
「俺は別にこっちの姿で困らないんだぞ」

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