宇宙混沌
Eyecatch

君が愛しいのは私を愛してくれたから [9/10]

 船の朝は早い。ゆらゆらと波に合わせてゆっくり揺れる船上を、もう既に誰かが走り回っている音がする。
 アタシは起き上がって、隣で眠る、脱ぎ散らかした寝間着と絡んでぐちゃぐちゃになっている男を見た。
『いつになったら契ってくれるんだぞ』
 昨夜もアタシは竹千代の胸に印を付けに、竹千代の部屋に来たのだった。竹千代はずっと、ただされるがままだったけど、武蔵で夫婦になると宣言してから早二月。流石に我慢の限界だったらしい。
 喉元過ぎれば何とやら。あんなに恐れていたまぐわいは、やってみると思っていたほど辛くはなかった。怖いからゆっくり進めてくれ、と頼んでそうしてくれたからだけど、その所為で寝不足だ。今日は妖怪退治の仕事があるのに。
 竹千代に添い寝し直す為に姿勢を変えると、腿に昨夜の愛の証が流れ出てくる。やっぱりこの匂いじゃん、最初に嗅いだの。でも、最初の女になれなかった悔しさより、昨夜貰った幸せの方が、今は心を満たしている。
 こんなにあっさり終わるなら、あの時ちょっと我慢してりゃあ……なんて、終わった事を考えても仕方ない。そうしたら何処か遠くで、家族もとっくに増えてたのかもしれないけど、互いの問題も解決してなかっただろう。勿論、理玖やせつなとわにも会えずじまいで、麒麟丸も倒せていなかったかもしれない。
「竹千代」
「んん?」
「妖怪と四半妖の子って何妖?」
「寝起きに算数させるなだぞ……」
 今度は竹千代が身を起こす。そのまま身支度を始めた。
「八分の五妖……」
「ちゃんと計算してたのか」
「お前も起きるんだぞ。遅れたらせつなに叱られるんだぞ」
「仕事までには起きるって」
「いつもより時間かかるだろうから早めにな」
 竹千代は鏡台の前で襟元を確認してから、髪を手で梳かしつつ部屋を出て行く。ちぇっ、初めての朝なんだから、何かもっと甘い言葉とかかけてくれても良いだろ。
 竹千代の居ない寝台に横たわっていても仕方ない。アタシも起き出して、ふと、そのまま鏡台を覗いた。
「……あいつ……」
 いつもより時間かかるって、こういうことかよ。
 竹千代を受け入れるのに精一杯で、他に何をされていたのかの記憶が曖昧だ。けど、首や胸元に散らばる印に、半ば呆れる。いや、人のことは全然言えないんだけど、アタシも。
「ま、見えても良いか」
 理玖も双子も鼻が利く。恥ずかしいけど、隠すのは端から無理だ。無理だ、けど……。
「ヤベェめっちゃくちゃ恥ずかしい!」
 仕事の時間までに平気な顔に、戻れるだろうか。こうなると、変に甘い話などしてくれなくて、逆にありがたかった。
 勿論、言葉なんかなくても、確かに愛し合ってたんだけど。

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