宇宙混沌
Eyecatch

君が愛しいのは私を愛してくれたから [6/10]

「竹千代怪我しなかったか? 避けなかっただろ、紅龍破[あれ]
 翌日。アタシは飛び起きて開口一番、洗濯物を干していた竹千代に尋ねる。
「したけど寝たら治った」
「相変わらず早くて良いよな~」
「お前こそ具合は」
「元気元気~」
「なら一つ頼まれてくれ」
 改まって言われ、アタシは何事かと緊張する。
「これをお前の矢か昨日の龍で壊してほしいんだぞ」
 竹千代が懐から長い数珠を取り出す。
「何これ」
「俺が昨日首を絞められていた物だぞ。これは狸妖怪の妖力を封じ込めてしまう」
「そんな便利な道具があるのかよ!? 聞いたことねえぞ」
「あるんだぞ、それが、此処に。ある場所で厳重に仕舞われていた筈なんだが……」
「へえ~。でもさ、勝手に壊しちゃって良いのか?」
「良い。所有者の許可はある」
「いつの間に取ったんだよ」
 竹千代は答えない。
「……良いから。何かあった時の責任は俺が取るんだぞ」
「えー、でもさあ、これ貴重な品だろ? 売ったら高く――」
「そうやって何処かに流れて行ったら困るから壊してほしいんだぞ!」
 怒鳴られて、アタシは口を噤む。
「……悪い」
「いや、こっちこそごめん。こんなの、狸のお前からしたら、怖いだけだよな」
 アタシは数珠を地面に置いて、少し離れた場所から矢を放った。数珠は粉々に砕け散る。
「助かった」
 その日はやっぱり仕事が無くて。アタシは店を掃除して、竹千代は昼飯を作って。それらが終わると、さて、やる事がない。
「昼寝でもするか」
「アタシさっき起きたばっかり」
「じゃあお前は起きてろ」
「えー」
「店番は俺がやってるから、二人で散歩でもしてきたらどうだ?」
 獣兵衛さんが提案しつつ、竹千代に目配せをした。
「……そうですね。もろは、山菜でも採るんだぞ」

「そういや、昨日の妖怪、なんで竹千代を狙ったんだ?」
「…………」
「無視かよ」
「……いや、心当たりが無いので……」
 嘘だな。だって昨日の妖怪、明らかに竹千代を知ってる風だったじゃん。
『駿河じゃお前が賞金首なんだよ』
 駿河って……大きな狸妖怪の派閥の拠点があったよな。確か、取りまとめてるのは狸平家、だっけ。
「狸平竹千代」
 言ってみると、びくん、と竹千代が肩を震わせ、アタシを振り返った。
「やめるんだぞ。狸穴の当主様を呼び捨てなんて」
 竹千代の声が上ずる。取り繕っているのがバレバレだ。
「へえ、狸平のお頭って、竹千代と同じ名前なんだ」
「……いや、間違えた。今は弟の菊之助様が当主だぞ」
「ふーん。その兄貴はどうしちゃったんだよ」
「病に罹ったとは聞いたが、その後は知らぬ」
 竹千代は再び前を向いて、ずんずんと山を登っていく。
 別に知られたくないなら良いけどさ。教えてくれてた方が、助けられる事もあるかもしれないじゃん。仮に本当に、竹千代の首に賞金が懸かっているのだとしても、竹千代の言い分も聞かねえで誰かに売ったりしねえよ。

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