君が愛しいのは私を愛してくれたから [4/10]
「え、賞金首が居ない?」
「それだけ犯罪が減っているという事だ」
「良い事なんだぞ」
「良くねえだろ! アタシ達どうやって食い繋げっての」
「まあまあ。どうせ一時的なものだ。悪というのは、例え根絶やしにしてもまた生まれるものだからな」
「むずかしい」
「とにかく、残りの仕事はこの一件だけだ。二人で行って来るか?」
そういえば互いの戦っているところを見たことがない。もろはを見ると、同じ考えのようだった。
「うん!」
「賞金は山分けだぞ? それでも良いのか?」
「元々ショボい額しか懸かってねえじゃん」
そういった小者は、いつもなら主に俺の担当だ。もろはは技が大振りなのと、飛び道具が得意なので図体の大きい首を主に担当している。大きければ難しい相手というわけではないが、懸賞金は首の大きさに比例しがちだ。
二人がかりだし、すぐに帰れるだろう。そう油断したのが間違いだった。
「フン、流石に勘付きやがったか! 護衛を連れてくるとはな!」
「は?」
思っていたよりも巨体の賞金首と対峙するなり、そんな事を言われた。
「まさか……っ!」
言葉にする前に、相手が素早く飛んできて俺の顔を掴んだ。
「駿河じゃお前が賞金首なんだよ『竹千代』。東の方で賞金稼ぎをやってる若い狸が居るって聞いて、遥々やって来た甲斐があったぜ」
地面に転がされ、何か数珠の様な物で首を絞められる。
「狸は本来戦いには向かねえが、『竹千代』ならあり得ると思ってな。大当たりだ」
こいつ、自分自身に賞金を懸けて、俺かどうか確かめる為に誘き出したのか!
「テメェ!」
もろはが刀を抜いて斬り掛かったが、妖怪は毒液を撒き散らす。
「こんな毒!」
一旦離れ、今度は弓を引く。矢が当たった所は浄化されたが、盾代わりに次々と撒き散らすからキリが無い。
逃げろ、もろは。こいつとは分が悪いんだぞ! 叫ぼうとしても、出るのは空咳ばかり。
「竹千代! 変化か術か使って逃げろよ!」
できたらとっくにやってるんだぞ! 力も出ないし、元の姿にも戻れない。なんでだ?
「できるわけねえよなあ?」
妖怪の含みのある言い方に、俺は遠のく意識の中、数珠に触れて形を確かめる。
「!?」
「気付いたか? 将監様に無理言ってお借りしてきたんだぜ?」
この数珠、狸妖術封じの数珠だ。将監め、これは門外不出の狸平の秘宝の一つだぞ!
「こうなったら!」
視界の隅で、もろはが懐から何かを出した。そしてその小さな唇に、紅を差す。
「紅き現に畏れ戦け!」
もろはが俺達に向かって刀を振り、その切っ先から大きな赤い龍が出てきた。
「ヒイッ!」
俺に覆い被さっていた妖怪が、俺を捨てて避けようとしたが、俺はそいつの腕を掴んで阻む。
避けられても、俺が飛び退くのが間に合わない。お前はこのまま、俺の盾になるんだぞ。
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Written by 星神智慧