宇宙混沌
Eyecatch

君が愛しいのは私を愛してくれたから [3/10]

「お前達、本当に仲が良いな」
 二人とも仕事が早く終わった日。昼寝をする竹千代に添い寝して、けれどアタシは眠くないから、ただじいっとしていたら、様子を見に来た獣兵衛さんが呆れたように言った。
「良いだろ」
 見せ付けたアタシに、獣兵衛さんは溜め息を吐く。
「気安く男に添い寝なんかするな。竹千代は分別があるが、そうじゃない男に手籠めにされるかもしれんぞ」
「解ってるよ」
 竹千代以外となんかするもんか。
 ていうか、竹千代には、別に。手籠めにされても、良いけど。
 獣兵衛さんが去る時に床が軋んだ。それで竹千代が目覚める。
「んん……菊……?」
 寝ぼけ頭ではっきりとそう言った。
「菊?」
 村にそんな名の女は居ない。村の外に居る、竹千代の恋人か?
 ……よりにもよって、アタシを間違えるなよ。お前が添い寝するように引き寄せたくせに。
 完全に覚醒したらしい竹千代は、アタシが鸚鵡返ししたその名に青褪める。
「何でもない」
 ほら、やっぱり。隠したいような、後ろめたい相手なんだ。
「俺、他にも何か寝言言ってたか?」
「さあな」
「答えるんだぞ」
「なんだよ、知られたくない事は胸の奥深ーくに大事に仕舞っとけよ!」
 そしてアタシなんかに悟られないようにしてくれよ。
「なんでそんなに怒ってるんだぞ?」
「何でもない!」
 竹千代は首を傾げたまま立ち上がる。その日は夕飯にアタシの好物を作ってくれた。まあ良いか。竹千代が女の臭いを付けて帰ってきたのって、最初に会った日くらいだからさ。別れた女に未練でもあるのかもしれない。

「もろはちゃん、大丈夫かい?」
「何が?」
 それから月日が経ち、ある日、村人の夫婦に尋ねられる。首を傾げると、女は心配そうに、それから男は薄気味悪い笑いを必死に隠しながら説明した。
「あの化け狸と一緒に暮らしてて」
「ちゃんと一人部屋を貰っているのかい?」
「いや、竹千代の部屋に間借りしてる」
「まあ」
「変な事されたりしてないかい?」
 何を言いたいか察した。竹千代に手籠めにされてないか確認したいんだ。
「竹千代がアタシに手ェ出すわけねえよ」
 つーか、そんなのお前等に関係ねえだろ。話を切り上げ、屍屋に逃げ帰る。耳が良い所為で、夫婦の会話がずっと聞こえてきた。
「心配してあげてるのに」
「どうせ妖怪の血が混ざってるんだ。あの子も竹千代と同じで、貞操も何もあったもんじゃないんだろう」
 なんだよ、人を[ケダモノ]みたいに。ていうか竹千代の女癖、村で話題になるくらい悪いのかよ?
「……アタシはそう思わないけど」
 アタシは四半妖だ。人間でもなければ、妖怪でもない。妖狼族の里では、皆良くしてくれたけど、それでもアタシが妖狼として生きていくことは出来なくて。でも、人間と呼ぶには、アタシの力は強すぎる。
 でもさ。竹千代と居ると、アタシ、まるで普通の人間の女に生まれたような気になれるんだよな。竹千代は、本物の妖怪なんだ。その出自に――生まれが何処なのかも知らないけど――誇りを持っていて、妖怪としての力を理解して、使い熟してる。ただの欲望と衝動の塊なんかじゃない。
 途中で痩せた老人とすれ違った。確かこの前、竹千代が川に落ちてるのを助けた村娘の、親父さんじゃ?
 屍屋では、正座した竹千代が虚空を凝視していた。
「どうしたんだよ、険しい顔して」
「もろは……」
 消え入りそうな声。そのまま本当に、何処かに行ってしまいそうな。
「……いや、少し、疲れてるだけだぞ……」
 竹千代が何でもないと言う時は、いつも「何でもなくない」という顔をしていた。誰かに何かを気付いてほしそうにしていた。
 今回は何だろ。ま、考えたって当てられたことなんて、一度も無いんだけどさ。アタシが力になれないことが、竹千代がアタシの力を求めないことが、いつも歯痒かった。

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