「まさかと思うが手は出してないだろうな」
珍しく寝坊して、獣兵衛様に起こされた。寝転がったまま見上げると、獣兵衛様は困り顔で俺達を見下ろしている。
「そんな面倒なことしないんだぞ」
もろはを起こさぬように夜着から抜け出す。しがみつかれるような格好で苦労した。
「なら良いが、くれぐれも世継ぎなど作らないでくれよ。事態が更にややこしくなる」
「解っています」
恐らく獣兵衛様も俺の火遊びには気付いている。でも――言い訳だと解っているから口には出さないが――自分から誘った事は一度も無い。俺の顔が大人びてる所為で、向こうから言い寄ってくるだけだぞ。
「……まさか、な」
獣兵衛様が店の方に行った後で、呟く。形だけ見れば、昨日のもろはとのやり取りは、いつも俺が女に食われる時の流れと似ていて。
身支度をしていた手を止め、まだ衝立の向こうで寝ているもろはを見る。いつも夜着が完全に剥がれるくらい寝相が悪いのに、今朝は綺麗に寝てるな。蹴られないよう押さえつけて寝た効果か。
「まさかな」
あり得ないだろう。もろはが抱かれたがってるなんて。ましてや俺なんかに。
でも。
『だからってお前に寒い思いさせられねえよ』
村の者は皆、俺にはどんな仕打ちをしたって構わないと思っている。俺は妖怪だから傷の治りも速いし、妖怪だから、何を言われたって心が傷付かないとでも思っているのだ。
だから、妖怪であっても辛苦を押し付けられる筋合いは無いと、はっきり言ってくれたもろはの事は、誰より大切にしてやろうと心に決めた。