宇宙混沌
Eyecatch

君が愛しいのは私を愛してくれたから [10/10]

「今日は機嫌良いな」
 甲板で作業していると、理玖様に言われた。俺は手を止めずに返す。
「これまでの人生で一番くらいには」
 今までの、あの目覚める度に自分の行為を嫌悪して吐きそうになるまぐわいは何だったんだぞ。好いた女となら、寝るのがこんなに気分が良いとは。
「でもよりにもよって、大物仕留めないといけない日にすることないんじゃないか?」
「死んでもおかしくないから死ぬ前にしておきたかったんだぞ」
「なるほどね」
「そう言う理玖様も」
「なんでバレてんだ」
「理玖様達激しいからたまに聞こえてくるんだぞ……」
「えっ、マジか。教えてくれて助かる」
 とわの口調が移ってるんだぞ。理玖様は頭を掻いて一通り反省した後、俺を振り返る。
「って、死ぬなよ。それから、死なせるなよ」
「当たり前なんだぞ。でも、死ぬ時はどうやっても死ぬんだぞ」
「それがおいら達の仕事の世知辛いところだなあ」
 困っている誰かの為に、力を尽くして、命を削って。それでもいつだって感謝してもらえるわけではない。
 俺だって、賞金稼ぎとしてあの村の近辺の治安を維持してきたのに、礼など一度も言われたことがない。ましてや、村人の中から犯罪人が出る始末。賞金が懸からなかったので、犯人探しはしていないが。
「でもお前は、賞金稼ぎを選んだのか」
「城で[まつりごと]してるよりは楽しいんだぞ」
「そういうもんかね」
「理玖様は政というか、根回し狂言回しもお得意ですから」
「いやあ、とわ様との件は、お前に色々お膳立てしてもらって感謝してるぜ?」
 さて、と理玖様が剣を出した。俺もその視線の先を見る。海が、妙に膨らんでいた。
「どうやら向こうさんも俺達を探していたみたいだなあ。予定より一刻も早く見つけちまった」
「もろはは間に合わないんだぞ」
「最後に破魔の矢で仕留めてくれれば良い。他の姫様達に知らせてくるから、時間稼ぎは任せたぜ」
「承知なんだぞ」
 俺は刀を抜く。人の姿が解禁されたとはいえ、長らく握っていなかった所為で腕が落ちている。いつもは理玖様と姫達で片付けてしまうし、俺が戦闘に参加するのは久し振りだ。
「あ~~~! 格好付けたけどめちゃくちゃ怖いんだぞ~~~!!」
 言っている間に妖怪が姿を現す。船が大きく揺れて、俺は甲板を転がった。
「痛っ! つか刀危ねえ」
「すまぬ」
 中から出てきたばかりの誰かとぶつかる。もろはだ。
「遅い!」
「ハァ!? 女三人の中で一番早いだろうが!」
 言って矢襖を放つ。
「よし! 竹千代、飛んでくれ」
「これ以上近付くとヤバいと思うぞ」
「いやなんか船が揺れて酔いそう」
「吐くんじゃないぞ? 吐くとしても俺にかけるなよ?」
「頑張る」
 俺が変化して飛び上がると同時に、理玖様が甲板に戻ってきた。
「夫婦で連携して戦うってのも良いもんですねえ、とわ様」
「私達は二人とも特殊系だから相性悪いよね~」
「なら早く別れろ。というか夫婦じゃないだろ」
「あいつら痴話喧嘩してねえで手伝えよ……」
 もろはが俺の上でぼやく。
「竹千代?」
 俺が無言だったので、心配そうな声がした。
「あ、うん。まったくだぞ」
 夫婦、と言われて、今になって急に実感が湧いた。昨夜の光景が蘇る。でも、今は、とりあえず目の前の敵に集中するんだぞ!
 そして無事にこの仕事を終えたら、昨夜や今朝恥ずかしくて言えなかったこと、どれだけ俺がもろはを好きか、ちゃんと伝えようと思う。もうもろはが不安にならないように。

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