宇宙混沌
Eyecatch

君が愛しいのは私を愛してくれたから [1/10]

 これは、アタシがまだ竹千代と仲が良かった頃の話だ。

 くしゃみが出た。それを衝立の向こうで寝ていた竹千代が聞きつけて、起き出してくる。
「寒いのかもろは
「寒い」
 昼間から雪が降るような日だった。寝る直前まで七輪の火をつけていたが、薄い壁の部屋の熱はどんどん奪われていく。妖狼族と住んでいた、山の洞窟の中の方がまだ暖かい。
 衣擦れが聞こえた。暗闇の中、ぼすん、と夜着の上にもう一枚、綿の入った着物が乗せられる。
「……竹千代の?」
「ん」
「お前が凍えるじゃん」
「お前と違って、妖怪だから死にはせぬ」
「だからってお前に寒い思いさせられねえよ」
 衝立の向こうに戻ろうとした着物の裾を掴んだ。
「竹千代も入れよ。その方がアタシも暖かいし」
 アタシは女で竹千代は男だ。添い寝に抵抗が無かったわけじゃない。だけど、アタシに楽させる為に竹千代が我慢するなんて、おかしいだろ。
 なんでこんなに甘やかしてくれるのか、理由なんて知らない。単に面倒見が良すぎるだけだろうか。
 竹千代はしゃがんで、暗闇を弄った。刀を握る所為で固くなった手が、アタシの頬に触れる。
「……人間ってのは自分で温かくなる力も弱いんだぞ?」
 竹千代の手は、冷気に晒されていたとは思えないくらい、しっかりと熱を持っていた。
「そうかもな」
 良いよな、純血の妖怪ってのは。体が頑丈で。
「仕方ないんだぞ」
 夜着の裾が持ち上げられて、アタシの隣に温もりが横たわった。それだけじゃない。竹千代は腕を回して、アタシをその胸に抱く。
「!?」
 竹千代の慣れた動作に、アタシは恥ずかしさよりも寂しさのようなものを感じる。以前にも、こうして誰かと寄り添って寝たことがあるのか?
 一体誰と。
「竹ち――」
 問おうとして、竹千代がもう寝息を立てているのに気付いた。
 竹千代にぴったりとくっついていると、確かに暖かくて、今晩はもう凍えなくて済みそうだ。けれど、至近距離から竹千代の匂いが鼻をくすぐる。犬に近くて、でも犬じゃない。昨日狩った賞金首の血と、作ってくれた晩飯と、帰りに濡れた雪の匂いが混ざっている。
 それで、竹千代と初めて会った時の事を思い出した。あの時は、何か妙な臭いがして――他には、知らない人間の女の臭いも。
 村の外で女を抱いてるのか。竹千代の歳なら、早すぎるってことはないのかもしれないけど。
「やだ……」
 何故かそれがとてつもなく嫌だった。行く先々で行きずりの女を作っている竹千代を想像するのも嫌だったし、逆に特定の相手を持っていると考えるのも。
 なんでそれ、アタシじゃないんだろ。
 そんな考えがよぎって、アタシは一人でのぼせた。何だそれ。まるでアタシが竹千代のこと好きみたいじゃん。
 ……いや、好きなんだけど、多分。口は悪いけど、優しいし美味い飯作ってくれるし。あと、ちょっと面も良い。好きになるだろ、こんなの。
 好きな男に添い寝してもらっているのに、気持ちは落ち込む一方だった。アタシは竹千代に少し世話を焼かれた程度で舞い上がって。でも竹千代にはその気が無くて、そのくせ、こうやって普通はしないような甘やかし方だって平気でしてくる。その不均衡が嫌だった。

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