第1話:二人の里帰り(前編) [5/6]
雨が降り始めた。
「……今日は此処までにするんだぞ」
「挿れないと竹千代が辛いだろ」
「気遣いはもう一本受け入れてから言え」
竹千代の指はアタシの入り口で止まっていた。二本目の指が引っかかってどうしても入らない。
「別に挿れなくても何とでもなるんだぞ。さっきみたいに舐めてくれても良いし」
「舐めっ……」
そういう事か。傷を舐めた後に竹千代の態度が変わった理由がやっと解る。
「それも無理なら今日出来なくても良いんだぞ」
「だっ、大丈夫だよ! なんか最初で引っかかってるだけだから、そのまま抜き差ししてくれよ」
「だったらもっと力抜くんだぞ」
そう言われても。中に押し入られる感覚は、強敵と戦う時とはまた違う恐怖心を煽る。
「もろは」
瑠璃紺の目が優しく、そして困ったように笑っていた。それで少し気が抜けて、ぬるりと奥まで入った。さっきよりも強く、中から広げられるように擦られて、痛いような気持ち良いような。
竹千代が中を押しながら、腹の上からも何かを探すように力を入れる。臍より拳一つ分下を撫でられた時、指を締め付けてしまったのが自分でも解った。
「お前本当にわかりやすいんだぞ」
「んっ、だって……」
とんとんと、竹千代がゆっくりと見つけた弱い所を叩く。水で濡れた体は乾いていくのに、自分から溢れてくる蜜は中で淫らな音を立て、尻の方まで滴っていた。
竹千代はさっきから触るだけで、楽しいのか? 顔を見ると少し眉間に皺が寄っていて、自分がしてもらうばかりで申し訳ない気持ちになる。この後挿れられる物の大きさを確認する為にも、竹千代の腰を弄った。
硬くて濡れているそれは、思ったよりも大きいわけではなかったけど、明らかに竹千代の指二本よりは太い。形を確かめるように手のひらで包み込むと、竹千代が腹を撫でるのをやめて覆い被さり、耳元で喘いだ。
「そういう事されたら我慢できないんだぞ」
覚悟を決めるより先に、竹千代が指を引き抜く。あちゃ、自分で煽ってどうすんだよアタシ。
「そんなに欲しいならくれてやる」
「ん。くれ」
「そこはもうちょっと恥じらってほしいんだぞ……」
何言ってんだよ、もうここまで来たら出たとこ勝負だろ。そう自分にも言い聞かせる。
脚を開かれ、竹千代が体を寄せる。
「あっ、痛……」
「駄目か?」
「大丈夫!」
やめようとした竹千代の頭を掴んで引き寄せる。口付けても、竹千代が割り入ってくるのに合わせて呻きが漏れる。
「きっついんだぞ……」
なんとか奥まで挿れて、唇を離すと竹千代もそう溢した。
「痛くないか?」
「痛い」
「抜くぞ」
「やだ!」
抜かれたら負けだ、なんておかしなことを思った。それでも少しだけ引き抜かれ、頭が一瞬真っ白になる。刺激が押し込む時の比じゃない。
「やっ、抜くなぁ!」
思わず両手両脚で抱き締め、動きを止める。
「竹千代が出すまで放さねえからな!」
竹千代はアタシの肩口に深い溜息を吐いた。
「少しは抜いたり挿したりしないと、出すものも出せないんだぞ?」
「うう……」
仕方なく拘束を緩める。竹千代が腰を引いて、アタシは叫んだ。
「ふあっ……ああん!」
間髪入れずに再度穿たれる。さっきよりも奥まで入って、意識まで揺さぶられる感覚に酔った。何度も、何度も。
「ハッ。初めて聴く声なんだぞ」
そう言うお前も見た事ねえ表情してるよ! 言い返したくても、口から出てくる声は言葉にならない。
「辛かったら言え」
嗜虐的な表情とは裏腹な言葉が出てくる。まだそんな気遣いが出来るのかよ。
「んっ……優しいな、竹千代は」
なんとかそこまで絞り出す。大丈夫だという返事の代わりに、頭の横に突かれた腕を撫でると、竹千代は手を繋いでくれた。
「俺優しいか?」
「うん」
「俺に散々虐められた事は忘れたんだぞ?」
「はぁっ、んんっ……そうだったっけ?」
当たりは強かったし、意地悪な言い方も沢山されたけど、理不尽な事を言われたのは、そうだな、「四半妖のくせに」くらいじゃねえか? あれはもう謝ってもらったし。
「……お前のその都合良く忘れる頭、好きなんだぞ」
「褒めてんのか、貶してんのか、ああっ! どっちだよ……」
「どっちも」
竹千代が速度を上げる。今度こそ本当に、意味のある言葉が出てこない。
勝手に涙が出てきて、とっくに竹千代の顔は滲んでいた。意識が遠のいてきた頃、竹千代が奥を突いた後に止まって、唇を寄せる。
「……大丈夫なんだぞ?」
いつもの竹千代に戻って、アタシの涙を拭う。頷いたアタシを一度強く抱き締めてから、竹千代は結びを解いた。
脱ぎ捨ててあった火鼠の衣を竹千代が拾い、妖力を流し込んでから火の中に投げる。暫くして引っ張り上げると、乾いていた。なるほど、ああすれば良かったのか。
「竹千代は何着て寝るんだよ」
衣をアタシに着せたので、尋ねる。
「狸の姿になれば問題無いんだぞ」
「狸? いつもの妖鎧ってことか?」
「お前、あの半端なのが俺の本当の姿だと思ってるのか?」
「違うの?」
竹千代は呆れたような馬鹿にしたような笑みを浮かべ、息を吐く。
「何処の山にあんな人の手足持った狸が居るんだぞ?」
そう言うと変化する。そこには肩の高さが人の背丈程の大きさの、暖かそうな毛皮を持った狸が居た。
「……こんなでかい狸も居ねえよ」
「そりゃあ俺は一流の妖狸だからな。お前は毛皮が無いから、特別に添い寝してやっても良いんだぞ」
「はいはい、寝かしつけてやるよ」
寝転がった竹千代の腹に、凭れかかるようにして顔を埋める。あったけえ。
「……狸の皮が高く売れる理由がよく解ったぜ」
「もろは~。まぐわった後にする話じゃないんだぞ~」
「ごめんごめん」
気付けば雨の音は止んでいた。うとうとし始めた頃、竹千代が尋ねる。
「そういえば、ひっくり返る前に何て言ってたんだぞ?」
「ああ」
寝かしつけてやる、なんて言っておきながら、何故だか眠くて仕方が無かった。
「竹千代は、アタシのどこが好きなんだ? って……」
竹千代は一拍間を置いて何か言った気がするけど、アタシの頭はそれを聞き取ることは出来なかった。
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