第9話:作戦は、こうだ [3/3]
「理玖さんの姪っ子……」
「説明忘れててすみませんでした」
「いや、首突っ込んだのは私だし」
「問題は、理玖さんの姉貴と狸穴をどうやって同じ場所に呼んで、これを見せびらかすかだな」
もろはは箱の中に戻された簪を眺める。理玖も左耳のピアスを無意識に弄りながら考えた。
「竹千代、何か良い機会ねえのか? ……そうだ、再婚の発表とかあるだろ?」
「あーね」
竹千代はスマホを取り出す。母親からのトークは通知をオフにしているから、既に何か来ているかもしれない。
「あるみたいです、今月末に。参加者はわかりませんが……」
「アネさんの方に訊いとくよ。いつもの感じなら、呼ばれてないってことはないだろ」
「しかもサプライズで発表するらしいですよ、再婚のこと。あとまあ、そういう半分私的な会なので、俺も二、三人なら人連れて来て良いって」
「簪を見せびらかさないといけないからなあ。髪長いのはもろはちゃんだけだし、二人は竹千代の招待枠で入りな。おいらはアネさんに招待してもらう」
「二人って……えっ、私も!?」
とわが自分を指差して目を丸くする。もろはが腕を組んだ。
「今更何だよ。此処まで首突っ込んどいて、肝心なところで逃げる気か?」
「そういう訳じゃないけど、パーティーとか初めてだし……」
「そりゃアタシもだけど」
「もろはのドレスは作ってやるんだぞ。練習がてら」
「では、とわ様のはおいらが買って差し上げましょうかね」
「様付けはやめてよ……」
「まんざらでも無い顔してさ~」
三人がわちゃわちゃ楽しそうにしている間に、竹千代は母親のメッセージを読み直す。
《前に着てたスーツ、もう入らないでしょ? 新しいの作るから、また家にいらっしゃい》
竹千代は入力欄をタップすると、こう書いて送信した。
《自分で作るからいい》
勢いで送ってしまってから、冷や汗が出てきた。スーツなんて作った事がない。間に合うだろうか。
「失礼する」
その時、店の扉が開いた。入ってきたのは、金に染めた髪をポニーテールにした男。
「……七宝さん」
「久し振りじゃのう」
「ん? 竹千代の知り合いか?」
獣兵衛に頷き、竹千代は七宝の元に走る。
「どうされたんですか?」
「いや、その……」
弥勒に偶然を装えと言われたことは、竹千代の姿を見るとすっかり吹き飛んでしまった。
「竹千代君が選ぶなら、こっちの色じゃと思ってな」
正直に言うと、七宝は持っていた紙袋から、藍色のストールを取り出す。
「今年リニューアルして、サイズと色を少し変えたのじゃ。あの時庇ってやれなくて、すまんかった」
「ってこたあ、七宝さんも竹千代が犯人じゃないと思ってたんで?」
理玖の問いに、七宝が頷く。
「今更と思うかもしれないが、弥勒に犯人に繋がる情報が出てきたと言われて、こうして話を聞きに来た次第じゃ」
「グッドタイミングですよ! 七宝さんにも、この作戦に参加してもらいましょう」
「ああ、やっぱ大人の方が説得力あるしな。他にも狸穴か盗んだかもしれない物があるって、パーティーで証言してください!」
理玖ともろははそう頼んだが、竹千代は別のことを頼んだ。
「その前に、俺にスーツの作り方教えてください!」
♥などすると著者のモチベがちょっと上がります&ランキングに反映されます。
※サイト内ランキングへの反映には時間がかかります。