宇宙混沌
Eyecatch

第9話:作戦は、こうだ [2/3]

 屍屋には、既にもろはとわも到着していた。
「見つかったか?」
「いや。この店に売られた物を調べに来たんだぞ」
「これだ竹千代。奥様が鍵を失くしたとかで。開かないなら二束三文になると言ったが、それでも良いから引き取ってくれと」
「これ、前に俺も見たぞ。俺の腕じゃ開かなかった」
「そうだな」
「買い取るので壊して良いですか?」
「バイト代から引いておく」
「壊さなくっても、アタシが開けてやるよ」
 もろはが何処かから工具を取り出す。
「そういや、まだもろはは挑戦していなかったな」
「でも、鍵が無いのに、会長はどうやって箱を開けたり閉めたりしたの?」
 もろはが格闘している間に、とわが尋ねる。
「母さんはいつも、空っぽの箱は鍵をその中に入れて、施錠はしないんだぞ」
 獣兵衛も頷く。
「それで、この箱に鍵がかかっているのを不思議がっていた。息子のどちらかの悪戯じゃないかと思っていたようだが」
「また冤罪なんだぞ」
 理玖ととわも納得する。
「とにかく、今度は鍵を盗んだってことか」
「簪よりは特徴がわかりにくいし、万が一見つかっても、他の物の鍵だと言い訳できるもんね」
「開いたぜ~」
 中には布が詰まっていた。丁寧に一枚ずつ取り除いていくと、きらりと真珠が光る。
「あった……」
「やったな竹千代!」
「でもこれ、どうするんだぞ? 強請るったって子供と会長じゃ、みんな会長の言い分を信用する。持たせるって言っても、それって結局、『俺達が盗んだ』罪を被せただけに見える可能性があるぞ。狸穴が俺にしたのと同じように」
「そうだねえ」
 理玖はさも楽しそうに笑う。
「狸穴には持たせず、ただ見せびらかすだけで良い。できたらそこに、アネさんも居ると良いな」
「どういうことですか?」
 とわが首を傾げる、
「今となっちゃ、これは竹千代が正式に買い取った物だ。けど、アネさんは驚くだろう。『それは失くした一点物だ』って」
「そうか」
 もろはが理解する。
「一点物だって――つまり目の前にあるのが、自分が盗ませた品だって知ったら、狸穴は自分がやったってバレないように取り繕うはず。場合によっちゃあ、また竹千代に罪を擦り付けるだろうな」
「そういうこと。それこそ、『狸平の家に隠したはず!』なんて言ってくれればこっちの勝ちだ」
「ん~? ごめん、まだよくわからない。流石にそんなうっかり発言はしないだろうし」
「そうだぞ。それに、この簪が俺の家から出てきた事は、俺が盗んで隠しておいたってことにしても何も矛盾しない」
「するんだよ、それが」
「「?」」
「竹千代には、この簪が盗まれた時刻にアリバイがある。それは狸穴もアネさんも解ってる。つまり、竹千代が正直に『これは我が家にあった家財の中から出てきた』って言っても、その家財の中に紛れ込ませたのは竹千代ではない」
「狸穴はともかく、なんで理玖様のお姉様も知ってるんだぞ?」
「えっ、お姉さん!?」
 うっかりとわの口が滑った。
「ごめん、なんでもない。続けて……」
(なんだ~良かった~~~! お姉さんか!)
(大事な話してる時ににやにやして気持ちわる……)
 絶対なんでもなくないだろ、ともろはは呆れる。
「そ、そうですか……。竹千代の質問に答えよう。お前が倒れて休んでる部屋に俺も一緒に居てさ、アネさんがりおんを連れて迎えに来てくれたんだ。その時にはもう、簪は無かった」
「つまり、犯人は俺以外の狸平家の人間か、同伴していたタカマルさんと当時の俺の主治医、それか狸穴会長に絞られる……」
「医者は浮かずにパーティー会場に出入りできる格好じゃなかった。アネさんは背が高いから、当時の菊之助が、何にも掴まらず誰にも気付かれず簪を抜くのは無理がある」
「今日聞いた話から、タカマルさんにもアリバイがある」
「タカマルさんのアリバイは、狸穴は知らねえかもしれねえが、他ならぬアネさんが証人だしな」
「かといって母さんに罪を擦り付けたりはしないと思うぞ。結婚前だし」
「完璧だな」
「ちょっと待って」
 もろはが一旦締めたが、覆したのはとわだ。
「りおんって、誰?」
 次から次へと女の名前が出てくる。その度に嫉妬している自分に、とわは気付き始めていた。

闇背負ってるイケメンに目が無い。