第9話:作戦は、こうだ [1/3]
「旦那様の部屋の捜索……ですか」
翌日。理玖と竹千代は学校をサボって、竹千代の実家に現れた。タカマルは味方だと信じ、一人で留守番をしていた彼に事情を説明する。
「そういうことなら協力しますが、坊っちゃんは無理しない方が良いのでは」
「寧ろ不安の原因が判って落ち着いたんだぞ。菊之助が帰ってくるまでに見つけなくちゃならない。俺も探します」
三人は竹千代の父の部屋の、棚や机の中を漁る。
「無い……何も……」
「ええ。形見分けや遺産の相続は終わってますからね。此処には家具類しか無いかと」
「俺そんなに形見貰った覚え無いぞ」
「物はほとんど親戚や友人に渡ったみたいです。口座に入っている資産は仕方ないとしても、実の子じゃない菊之助坊っちゃんに、わざわざ何か与えるのもバカらしい。竹千代坊っちゃんのことは元々連れて逝くつもりだったみたいですし、子供に何も遺さないのも不自然じゃありません」
「なるほどなあ」
理玖は呟き、引き出しを押し込む。
「この部屋には無さそうだな」
「えぇ、じゃあどこなんだぞ。うち家具やら何やら多いし、一日で全部は洗えないぞ」
「そもそも、私は奥様がグルというのには懐疑的なのですが」
タカマルの言い分に、二人は耳を傾ける。
「奥様が竹千代坊っちゃんと明確に距離を置き始めたのは、万引き事件の後です。今は確かに進路の邪魔をしているように見えますが、最初からじゃありません。でなきゃ昇陽中なんかに入れませんよ」
納得していなさそうな目つきの二人に、タカマルは続ける。
「それに、グルなんだったら盗品を竹千代坊っちゃんの荷物に紛れ込ませるのは、奥様に頼めば良いじゃないですか。自分が疑われる可能性のある、会長が居る日にわざわざ行わなくても」
「確かに」
「言われてみれば……」
「狸穴会長が奥様の部屋に出入りしていた形跡もありません。隠すとしたら、その辺に置いてある調度やアンティークコレクションの中ではないでしょうか。どれが増えたり減ったりしたか、最早奥様しか知りませんし、興味無いでしょう?」
「えっ、減ったりもするのか?」
部屋を出つつ、理玖が尋ねる。
「ええ。置き場所には限りがありますから、飽きたり壊れたりした物は手放すことも」
「その処分先って……」
「屍屋だぞ」
竹千代はスマホを取り出す。
「鍵無しでアクセスできる場所にある家具の中に無ければ、獣兵衛さんが再び買い取った可能性が高い。俺の家から買った物の流通を止めてもらって、調べてもらいます」
「どんどん大掛かりになっていくな」
「でも、鍵無しで入れるのは居間と廊下、水回りくらいです。手分けしてやれば昼過ぎには一通り見れるでしょう」
「無いな」
午後。タカマルが簡単に作ってくれた遅い昼食を食べつつ、理玖が肩を落とす。
「獣兵衛さんは何て?」
竹千代は返信を確認した。
「簪そのものは無かったらしいぞ。それから、再流通させる時は必ず中身を確認するから、簪が入ったまま他の人に売った可能性は無いって」
「屍屋に無いとしたら、本当に捨てちまったのか?」
「まだ続きが。一つだけ、蓋が開かないから店の倉庫に置きっぱなしになっている箱があるらしいぞ」
「それにかけるしかありませんね」
タカマルの言葉に頷く。
「そういえば、りおんちゃんは幾つになりましたか?」
「今年で十一歳だったかな?」
「今探してる簪が失くなったパーティーに来てましたけど、あの時はまだ小さくて、眠くてぐずってましたね。坊っちゃんが倒れる前――地震の直前ですね、りおんちゃんを控室で休ませるか、是露さんに訊いてたんです。急にほっぽりだしちゃって、失礼しました」
「アネさんは気にしてませんよ」
「いえ、控室に理玖さんと坊っちゃんと、お医者様だけにしたでしょう? 是露さんとりおんちゃんも控室に呼ぼうと思って探しに行ったのですが、見失ってしまって」
「おいらも気にしてませんよ。そういや、簪が無いってアネさんに教えてくれたのも、タカマルさんだそうですね」
「ええ、素敵な品でしたから、お世辞じゃなく褒めたのを覚えてます。見つかると良いですね」
昼食を食べ終わると、二人はタカマルに礼を言い、屋敷を後にした。
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