宇宙混沌
Eyecatch

一生分の愛を君に [1/7]

――なんやかんやあって武蔵に戻って来ていたもろはと竹千代は、なんだかよくわからない井戸の力で令和に飛ばされてしまった!!

「マジでご都合主義も良い加減にしろよ」
「『壊された筈の紅持って変身する君に言われたくない』って作者が言ってるんだぞ」
「まあ良いや。竹千代、掴まれ」
 もろははいつもそうしているように竹千代を抱え上げると、一気に井戸の上まで跳んだ。小屋を出て、辺りを見回す。見慣れぬ景色に、竹千代は火鼠の衣を握り締めた。
「ここ何処なんだぞ?」
「令和の東京っていう、とわが暮らしてた場所だよ。大ママかじいちゃんが近くに居るだろ」
「おおまま?」
「アタシのお袋の母ちゃん。じいちゃんはお袋のじいちゃんだってさ」
 家のチャイムを鳴らすと、大ママが出迎えてくれる。
「もろはちゃんじゃないの! どうしたの急に」
「アタシが知りたいよ。とにかく、あっちに帰れるまで暫く居候して良い?」
「もちろんよ。可愛いぬいぐるみね」
「俺はぬいぐるみじゃないぞ」
「あら、妖怪さん?」
(流石は大ママ、理解が早い……)
「アタシの相棒なんだ」
「竹千代と申すんだぞ」
 二人は居間に上げてもらう。
「何処か出掛けるなら、かごめの服があるわよ。お金も少しなら」
「行きたいのは山々なんだけど、竹千代を見たら、こっちの世界の皆はびっくりしちゃうんじゃ?」
「それはそうねえ」
「もろはが一人で出掛ければ良いんだぞ」
「それはなんかお前に申し訳ないっつうか」
 ふむ、と竹千代は部屋の中を見回す。付きっぱなしのテレビからは、バラエティ番組が流れていた。
「誰かの姿を借りるか。でも、これはあちこち視点が変わって、一人の人間を長く見られないんだぞ……」
「そうだ」
 大ママが何かを思い出す。棚から冊子を取り出した。
「この前、芽衣が忘れて行ったのよ。ジュリアン君の写真集」
「こいつ、どっかで見たことあるような……」
 もろはは頭を捻る。竹千代は小さな手で受け取った。
「拝見します。……顔や体は何とかなるだろうけど、着物は構造がよく解らないんだぞ……」
「草太の服もあるわよ」
 それぞれの部屋に通され、竹千代は人間に変化してから着替える。廊下に出ると、ロングスカート姿のもろはが待っていた。
「急ごしらえにしては良い感じじゃん」
「体格は服に合わせたからな。顔は適当だけど、人並みに見えれば十分だぞ」
「服に合わせたって、そんな器用なこと出来るんだ」
 素直にもろはが感心する。竹千代が物珍しそうにスカートを見ているのに気付き、説明した。
「アタシも竹千代が履いてる『ズボン』の方が良かったんだけど、お袋のが背が高いからさ」
 もろははセーターの袖が余っている様を見せる。
「なんか可愛いな」
 竹千代がふと漏らした。もろはは少し照れたが、とわに教えてもらった言葉を思い出す。
「萌え袖って言うんだってさ」
(可愛いのは服だよ服。それも皆が可愛いと思う着方なんだから)

「じゃあ行ってきます」
「どのくらいで帰ってくる?」
「うーん、長くても二刻くらい?」
「四時間くらいね。晩御飯用意しておくから」
 大ママから小遣いをもらい、家を出る。
「どこか行きたい所があるんだぞ?」
「別に。でもさ、知らない土地を歩くのってワクワクしない?」
「しない」
「臆病者」
「否定はしないんだぞ。迷子にはなるなよ」
「何かあったら『交番』ってのに行けってさ」
「ふうん」
 竹千代は歩きながら周囲の気配を探る。此方の世界は安全だととわかごめも言っていた。しかし、それを裏付けている妖怪の気配の無さが、妖怪である竹千代には薄ら寒い。
「五百年後かあ……。俺も死んでるのかな」
「いずれにしても、四半妖のアタシは死んでるだろうな」
 あっけらかんと言われた言葉が、竹千代の胸にズキリと刺さる。そんな事は最初から自明の筈なのに。
 もろはがずっと隣に居てくれるわけじゃない。
(それは寂しいんだぞ)
 竹千代は、半ば無意識にもろはの手を握っていた。もろはは驚いて竹千代を見たが、竹千代は表情を変えずに前を見て歩いている。
(急にびっくりした……。って、いつも抱っこしたまま連れ歩いてたな。アタシの方が意識して、変なの)

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