宇宙混沌
Eyecatch

一生分の愛を君に [2/7]

 だが平穏な散歩というわけにはいかなかった。
「あれジュリアン君じゃない!?」
「隣の女誰!?」
 街に出ると、途端に囲まれる。
「ひっ、人違いだぞ!」
 体の大きさに合わせて少し低くなっているが、本物のジュリアンとは似ても似つかぬ声に、ファンや野次馬も納得して散って行く。
「あーもう、人通りの少ないとこ行こうぜ」
 もろはは竹千代の手を引っ張ってぐんぐん進む。気付けば何やら奇抜な外装の建物ばかり並んでいた。
「疲れたんだぞ……」
 気が抜けて思わず溢した竹千代に、もろはがその内の一つを指差す。
「なんか休憩出来るっぽいよ」
 竹千代もその甲板を見る。品書きを見る限りは宿屋のようだ。確かに、貰った金で十分足りる価格で、二時間の休憩にも使えるらしいが。
(嫌な予感がするのは俺だけなんだぞ……?)
 人通りの少ない立地に、通りから隠された入り口。なのにこんな派手な外観。
(絶対何かあるんだぞ、これ。他にも並んでいるから、この世界ではそう珍しくないみたいだけど……)
「竹千代?」
「あー……。もろはが入りたいのか?」
「好奇心はそそるよな」
「じゃあ……」
(まあ、危険な場所ではないと思うんだぞ)
 中には案の定、大きな寝台やら何やらが置かれていた。竹千代はそれに倒れ込む。
「疲れすぎだろ」
「何なんだぞあの人の多さ! それに、慣れない姿は造形に頭を使うから大変なんだぞ!」
「だったらアタシに化ければ良かったんじゃ?」
「確かに……」
 双子と言えば何も問題無い。
「少し休む。四半刻経ったら起こしてくれ」
「ん」
 もろははその間暇なので、部屋の中を探索する。大きめの浴室に、タオル生地で作られた着物がかかったクローゼット。小さいソファーとローテーブル。テレビは壁にかかっていた。細々したものはベッドの周りだ。
「疲れるくせにそのままの姿で寝るのかよ」
「変化解いたら多分戻れなくなるんだぞ」
「今度はアタシに化ければ良いじゃん」
「服が無いんだぞ~。女物でもぶかぶかなのに……」
「そうだった……」
 竹千代は寝返りを打ってもろはに背を向け、眠そうに枕に顔を埋める。
「起こして悪かったな」
 もろはは竹千代の肩や頭をぽんぽんと撫でて、枕元に置いてあったテレビのリモコンを手に取った。ベッドの端に座り、電源を付けて適当なボタンを押す。
『あんっ! ああん!』
 途端に流れ出す肌色と嬌声に、もろははリモコンを床に落とした。竹千代も飛び起きて、それから納得の溜息。
「あ~~~。やっぱりなんだぞ」
「やっぱりって?」
 もろははリモコンを拾ってあれこれ押すも、違うテーマのAVが流れるだけだ。
「寝台が一つしかないのに、俺ともろはが二人で一部屋って言っても、受付が何も言わなかったんだぞ。男女が床の上でする事なんて一つしかないだろ」
「あっ……」
 つまりはまぐわう為の場所なのだと、もろはも察する。
 努めて聞かないようにしても、大音量で響く女の喘ぎは竹千代の劣情を煽る。もろはがハッとした声ですら、事の最中はどんな色になるのか想像させてしまうほど。
「それ止められないのか?」
「今止めようとしてる!」
「最初に明るくした時どうやったんだぞ? 暗くする仕掛けもあるだろ」
「あ、電源切れば良いのか」
 やっと静かになる。その分お互いの吐息がよく聞こえて、二人は目を合わせられない。竹千代が背を向けたまま訊いた。
「そっちの扉の先は?」
「便所と、この時代の風呂」
「俺が戻ってくるまで絶対に開けるんじゃないぞ」
 すっかり膨らんでしまって、ズボンがきつくて痛い。自分で抜こうと立ち上がった竹千代の腕を、もろはが掴む。
「……しちゃう?」
 上目遣いに訊いてきたその頬は、紅を差したように色付いていた。
「…………は?」

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