宇宙混沌
Eyecatch

第3話:少女達の事情 [4/4]

 もろはは日曜日の午後にもバイトを入れている。竹千代は日曜は完全にオフにしているが、時々屍屋に遊びに来ることもある。今日は来なかった。
「獣兵衛さんさよなら~」
 バイトを終え、もろはは店を出る。まっすぐ帰る気にはなれなかったので、こっそり鋼牙と繋がっていたことでも責めようかと、竹千代の家に向かった。
「あっ、竹千代!」
 丁度家の前に、日本人らしからぬ顔立ちと髪の色の少年が立っていた。
「お前おじさんと――」
 振り返った少年の顔を見て、もろはは言葉を切った。顔立ちは竹千代そっくりだが、ほくろが無い。青い瞳の色は竹千代より更に明るく、視線の高さもいつもより近いような。
「あっ、いえ、その、失礼します!」
 その少年はそれだけ言って、もろはの隣を駆け抜けて居なくなってしまった。
「……近所迷惑」
 中から本物の竹千代が出てくる。
「いや、いま竹千代そっくりな奴が」
「ああ。それ弟だぞ」
「え、弟居たんだ?」
「俺が学校に送ってやった日、噂してたぞ? 狸平[まみだいら]菊之助って」
「そういえば」
 寒いので上がらせてもらう。もろはは言おうと思っていたことをすっかり忘れた。
「弟の方が日本人離れしてるな」
「まあ半分日本人じゃないし」
「名前めちゃくちゃ和風なのに」
「父が名前だけでも日本人っぽくって付けたんだぞ。何も幼名取らなくてもとは思うが」
「『家康』が良かった?」
「うーん、俺は孝高が良い」
「誰だっけそれ」
「黒田官兵衛のこと。その袋何?」
「ああ、菖蒲ちゃんが持ってけって。高そうなクッキー」
「別に良いのに……」
 言いつつも封を開ける。竹千代は茶を淹れる為に立ち上がり、上着代わりにしている紬の裾を翻して台所へ。
「弟、アタシが声掛けたら逃げちゃったんだけど、大丈夫?」
「お前が来なくても、あいつはピンポン鳴らさなかったと思うぞ」
「なんで? 此処まで来たのに?」
 竹千代が振り返る。深い青の瞳はまるで、悲しみの海の色のよう。
「あいつは俺と違って、根性無しだから」
(嘘つけ)
 竹千代はコンロに火を付け、茶葉を探して棚の中を見る。
(俺だって教室のドア、開けられないくせに)

闇背負ってるイケメンに目が無い。