「理の働いてる学校って何処だったっけ?」
日曜日。理玖はテーブルの向かい側の次兄に尋ねた。
「おや? 理玖も漸く教職に興味が湧きましたか?」
「湧いてねえ。俺は研究職志望だっつってんだろ」
「そうですか。聖ガブリエル学園ですよ。女子校です」
理玖はフォークに刺したばかりの朝食を皿に落とした。
(おいおいおい、どっかで聞いたことあると思ったら、お前かよ……!)
「『とわ』と『せつな』って名前の生徒知ってるか? 双子の!」
理玖は立ち上がって理の肩を掴む。
「ええ、とわさんの方は私が担任です」
「知ってる事洗いざらい教えてくれ!」
「それはできません。個人情報保護の観点から」
「クソッ!」
「彼女達がどうかしたのですか?」
「別に。……お前今日どっか行くのか?」
椅子に座り直して兄を改めて見ると、なんだかいつもより洒落た格好をしている。いや、服装に全く気を払わない理玖に比べれば、理は常に小綺麗にしている方だが。
「ええ。教え子達に誘われたので、一緒にディ○ニーランドに行ってきます」
「お前の方が職権乱用じゃねえかこのロリコン」
言った言葉がブーメランとなって理玖にも刺さる。理は確か、今年は二年生の担任と言っていたから、理玖ととわは少なくとも八歳差だ。理玖も十分ロリコンである。
「失敬な。おっといけない、待ち合わせに遅れてしまいます」
出て行く兄の背中を睨め付けながら、朝食の残りを掻き込む。
(クソッ。なんで理のが先に知り合ってて、しかも担任なんだよ!)
そこでハッとする。今日のディズ○ーランド、とわも来るのでは?
「今日のメンツにとわは含まれてる?」
慌てて玄関で兄を捕まえる。
「入ってませんよ。今日は卒業生と行くんです」
「なんだ」
「随分とご執心ですね」
「んなこたねえよ」
ダイニングに戻り、皿を片付ける。深く溜め息を吐いた。
「ご執心か……そうだなあ」
(おいららしくもない。でも、あの顔、忘れられねえな)
皿を洗っていると、よれよれのシャツの袖が目に入る。これはこれで研究者然としていて、大学では浮かないのだが。
「服でも買いに行くか」