宇宙混沌
Eyecatch

子供の遊び [9/9]

「しまった!」
 もろはと二人、邪見が時代樹に虚しく突進する様を眺めていた竹千代は、突然隣から上がった声に首を傾げた。
「やっぱり借金返しとけば良かった~」
「今更なんだぞ。流石にタダでやる程お人好しじゃないんだぞ」
「解ってるよ! でも、返したらお前また抱いてくれるんだろ!?」
「そんな約束した覚えないんだぞ」
 駄目なのか、ともろはは少し傷付いた表情を浮かべる。
「ちょっ、待っ、おぬしらまだ諦めておらんかったのか!?」
 思わず邪見も突進を止めて振り向く。既に顔はあちこち変形していた。
「いや、それこそ何の話なんだぞ」
 邪見は失言に口を隠す。もろはの様子を犬夜叉達に伝えようとして、二人が逢瀬を楽しんでいる場面に出食わしたことは一度や二度ではない。この二年ほどはそんな気配が無く、破局したのだと思っていたのに。
「えー、なんじゃその、竹千代は遊びでもろはを手籠めにしたのか?」
「そんな訳無いんだぞ!」
 そうはっきり言えるようになるまで、時間がかかってしまった。しかし己の出自と向き合って、漸く気持ちが決まった。竹千代はもろはが好きだ。そして、好きな女一人手に入れられない立場に、何の価値がある。
「まあ、独り立ちできない時分に手を出したのは良くなかったと思うけど……」
「そもそも初潮もまだの子供に手を出したことを反省せい! 儂と同じくらいの背丈のくせして!」
「背丈は関係無いんだぞ。第一、人型になったらもろはより高いし」
「ああ~! 悔しいけどそうじゃった!」
 もろはは二人の言い争いを聞きながら、段々と笑顔になる。
(遊びじゃなかった……)
 もろはを遠ざけたのも、もろはの事を思ってのことかもしれない。
「まあまあ。良いじゃん、アタシ達が良いんだからさ」
「あ~。犬夜叉が聞いたら泣いてしまうわい。大事な一人娘がこんなにふしだらなんて……」
「犬夜叉と親しかったんだぞ?」
「いやそんなことは無い。そうじゃ、今はそれどころではなかった! りん~ぶへっ」
 再び時代樹にたん瘤を増やされている邪見に、二人は揃って溜息を吐く。
「ま、何にせよ麒麟丸との戦いが終わってからだな」
「お前は借金を返してからだぞ」
「はいはい。お前の方は、もう良いんだよな?」
 ずっと竹千代が言えなかった理由。それはきっと家のことだろうともろはは考えている。
「勿論だぞ」
 竹千代はもろはを見上げた。
「いつまで経っても貰い手の無い女を娶ってやらねばな」
「ハァ? んだよそれ。誰の為に貞操守ってやってると思ってるんだよ」
「あの~、せめて見守っててもらえません? 流石の邪見も痴話喧嘩してる隣じゃ頑張れない」
 森の中に騒がしい声が響く。時代樹は早いとこ邪見を中に入れた方が良いのか考えた。結局、今もろはと竹千代を二人で残すと何がおっ始まるかわからない、と結論付けて、時代樹はもう暫くの間その入り口を閉ざしていた。

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