宇宙混沌
Eyecatch

子供の遊び [8/9]

 思えば竹千代は、好きだなんて一度も言ってくれなかった。
(全部遊びだったんだ)
 もろはは心がぎゅうっと押し潰されるような気持ちになった。血を流す腹の痛みに耐えながら、しゃがんで打ち寄せる波を見つめる。
 竹千代のしたことは全て「悪い事」だった。寝ているもろはの唇を奪ったのも、何も知らない体に快楽を覚えさせたのも。
 何もかも竹千代が悪くて、そんな悪い男に手籠めにされた自分は可哀相で。そう思うのは簡単で、実際竹千代もそうしろと言っている。
 なのに。
『お前は借金背負ってるし、俺は……』
 言って苦しそうにした顔。そういえば、最初から獣兵衛には反対されていたことを思い出す。
「もろは、こんなところで何してる? 腹が痛いのか?」
 考えていたら、用を済ませた獣兵衛が村に戻ってきた。
「月役だよ」
「そうか。お前もそんな歳か」
 獣兵衛はもろはを連れて屍屋に戻る。竹千代は書き置きをして、何処かに居なくなっていた。
「竹千代、何処行ったの?」
「なに、いつもの上客に連れて行かれただけだ」
 獣兵衛が床の用意をしてくれる。思い切って訊いてみた。
「獣兵衛さん、アタシと竹千代が寝てるの知ってた?」
「まあな」
「最初は反対したんだろ、竹千代に。なんで?」
「竹千代が教えていないなら、俺が勝手に教えるわけにはいかない」
「ちぇっ。どっちが偉いのかわかんねえな」
 勘の良いもろはの言葉に、獣兵衛は内心感心する。
「とにかく、お前が借金を背負ってることには変わりない。孕めば働けなくなるんだぞ。穀潰しは腹に子が居ようが相手が竹千代だろうが、此処には置いておけないからな」
「解ってるって。竹千代ももうしないってさ」
「なら良いが」
 獣兵衛は店に戻る。もろはは目を閉じて、初めて口を吸われた時のことを思い起こした。
(あれ、遊びだったのかぁ……)
 まっすぐに自分を見つめる瑠璃紺の瞳は、そんな風には見えなかったのに。
(遊びでも良いから、また会いたいな)
 夢の世界に落ちていきながら、もろはは鋭い目つきの、秘密を抱えた優しい男のことで思考を満たしていた。
 本当に一度も、竹千代を嫌だとか気持ち悪いだなんて思ったことはなかった。それは子供なりに竹千代のことを信じて――愛していたからだと、振られて初めて気が付いた。

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