宇宙混沌
Eyecatch

子供の遊び [5/9]

 獣兵衛の目を盗んで唇を重ねる日々が続いた。
「竹千代は」
 屍屋の奥の部屋で、名残惜しそうに竹千代の唇を眺めながらもろはが尋ねる。
「その人の姿、嫌いなのか?」
 当たらずとも遠からずといった指摘に、竹千代は苦笑して、もろはの額に口を寄せる。
 年相応の肉体は、正直なところ厄介なだけだった。子狸の姿では機能的に抑えられている愛慾が溢れてきて、止められない。
 口付けのその先に行きたいのは、もろはと結ばれたいからか? そこを間違えれば取り返しがつかないことくらい、流石に竹千代も解っている。
「するなら口にしてくれよ」
「もろはも淫乱なんだぞ」
「いん……なんて?」
「知らなくて良い」
 知らないでいてほしい。竹千代のしている事の浅ましさなんて。
 もろはは、普段の子狸の姿では見せない竹千代の表情に、ドキリとする。
「いつもこっちの姿でいてよ。狸の時はうるさいし意地悪だし」
「獣兵衛様に、仲が良いと悟られたくないんだぞ」
「仲良い事は別に悪い事じゃないだろ!?」
 もろはは竹千代の背中に回した腕に力を込める。
「悪い事なんだぞ。俺にとっては」
 竹千代は吐き捨てると、もろはを突き飛ばす。子狸の姿になって、表に出た。
「戻った。竹千代、もろははちゃんと掃除してたか?」
「適当にやった後は怠けてたんだぞ」
「それじゃあ駄賃は大して出せんな」
(ちっくしょー……)
 もろはは裏の部屋で悔しがったが、竹千代は嘘は言っていない。何度も口吸いを強請ったのももろはの方だ。
(まあ、でも、良いか)
 優しい竹千代の顔は、もろはしか知らないのだ。秘密を共有している事実は、どこかもろはを悦に浸らせた。

「竹千代」
 それから数日後、獣兵衛が呼ぶ。子狸の姿を現して、梁から降りた。
「何でしょう?」
「もろはが遅い。[]られてないか見に行ってやれ」
「へーい。今日は何処ですか?」
「北に二つ向こうの山だ」
 随分遠くまで行ったな。首を得られれば金一両、と聞いて張り切っていたが。
「もろは!」
 幸い、血の匂いを辿るとすぐに見つかる。妖怪の前に座り込んでいた。
「竹千代」
「怪我したのか?」
「ううん、へとへとでさ」
 首はちゃんと落としてあった。頭から血を被って全身真っ赤だが、全て返り血らしい。
「乗せて帰って」
「嫌なんだぞ」
「迎えに来てくれたんじゃないのかよ」
「戯け。その血塗れで笠に乗るなってこと」
 近くの川まで連れて行く。もろはが水浴びをしている間に、火を熾して、汚れた衣を洗ってやろうとした。
(腕が短い)
 効率の観点から人間に化ける。一通り水を通したところで、後ろから急に抱きすくめられた。
「……俺まで濡れたんだぞ」
 裸のまま、びしょびしょのままで抱き着いた少女を顔だけで振り返る。抑えたかった筈の熱が灯った。
「火に当たるより竹千代の着物で拭いた方が早い」
「俺の着物を手拭いにするな」
「けち。今日は二人だけなのに意地悪するんだな」
「人の着物勝手に使うなってのは意地悪じゃないと思うんだぞ……」
 とはいえ、他に拭う物も着るものも無い。一番上の小袖を脱いで、もろはにかけてやる。肌を見られても、もろはは恥ずかしがりもしない。
 洗濯を終えて、火の近くに腰を下ろす。もろはは竹千代の隣に座って、その顔をまじまじと見た。
「ねえ、なんで?」
「何が?」
「なんで二人の時しか人の姿にならないし、優しくしてくれねえの?」
「言ったろ。獣兵衛様に言われたんだぞ」
「狸の姿で意地悪しろって?」
「いやそうではないが」
 説明が面倒だ。一先ず黙らせる為に口を吸う。最近はもろはの方から舌を入れてくるようになった。
「んっ……」
 もろはが腰を揺らす。踏んでいた着物を尻の下から退かす動作に、竹千代は目眩がした。濡れているか、或いはこれから濡れると解っているのだ。
「もろは、俺のこと好きか?」
「うん」
 その答え方はきっと恋を知らない。
「二人の時は優しいし、気持ちよくしてくれるし」
「もっと良くしてやろうか?」
「もっと?」
 首は傾げられたが拒絶はされなかったので、竹千代はまだ毛の生え揃わない下を弄る。蕾を見つけて、優しく摘んだ。
「あっ!?」
 割れ目はちゃんと濡れている。その蜜を掬って蕾に擦り付ければ、森の中にもろはの喘ぎが響いた。
「やっ、すごい! やだぁ!」
 太腿を閉じて拒絶の言葉があったので、竹千代は指を離す。
「痛かったんだぞ?」
 もろはは首を横に振る。言葉に出来ない感覚だった。
(痛い、わけじゃなくて。気持ち良い、で合ってるのかな)
「……もっとして……」
 ただ中途半端にやめられて、腰が落ち着かない。竹千代の手を引いて、自らその指を蕾に添え当てた。
 もっと、と言われて、どこまでしようかと竹千代は考える。
「お前、初潮[はつしお]はもうあったんだぞ?」
「え? まだだけど」
「そうか」
 なら指すら入らないかもしれない。
 なら抱いたって孕ませずに済む。
 二つの言葉が頭を過り、竹千代は両方に耳を傾けた。
「痛かったらちゃんと言うんだぞ」

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