宇宙混沌
Eyecatch

子供の遊び [3/9]

「……おはよ」
「馬鹿言ってんじゃないぞ。もう昼前なんだぞ」
 きっちり丸一日寝て、もろはは目覚めた。竹千代は子狸の姿に戻っていたが、その唇は少し紅い。まさか自分の紅だなんて思わないもろはは、立ち上がって昨日作った屍の処理にかかる。
 屍屋に戻ると、首を見た獣兵衛が感心した。
「ほう。どうやって倒したんだ?」
「まあ、いつもの……」
 もろはは誤魔化したが、獣兵衛の隻眼は鋭くもろはと竹千代の顔を見比べる。
「ふん……まあ倒したことには代わりない」
 獣兵衛はもろはに報酬と次の仕事を与える。竹千代には屍屋に残るように言った。
「十二で此処へ来て、もう五年か」
「そうですね」
「その見た目で忘れていたが、お前ももう年頃だったな」
 話の流れの不穏さを感じ取り、竹千代は身構える。
「紅が付いているぞ」
 竹千代は慌てて、口を腕で拭った。
(全く気付かなかった。もろはも何も言わなかったが?)
 勝手に唇を奪ったことを知られていたらどうしよう、と心配になる竹千代に、獣兵衛は続ける。
「本当はこんなこと、言いたくはありませんが」
 それは居候の子狸ではなく、狸平の若君に対する言葉だった。
「立場をお考えください。貴方の帰りを待っている御家老もいらっしゃるのです」
 もろはのような女は「若君」には相応しくないと言っている。或いは、逃亡中の身では、女を作っても苦労が増すだけだと言いたいのか。
「すまない。なに、ただの戯れだ。心配せずとも、俺が四半妖なんて本気にするわけないんだぞ」
 敢えて強い言葉を選ぶ。獣兵衛は訝しむ視線を寄越しつつも、竹千代を解放した。竹千代は外に出て、そのまま林の中に姿を消す。
(理玖様が言っていたな)
 禁じられると逆に欲しくなるものだ、と。是露様に集めるなと言われているのに、こっそり虹色真珠を探している彼の言葉を、竹千代は漸く自分のものにする。
 それが恋なのか、肉慾なのか、禁じられたことに対する反発なのか、竹千代には判らなかったし、どうでも良かった。
「もろは」
「あれっ、竹千代?」
「今日は暇だからタダで送ってやるんだぞ」
 竹千代はもろはに追い付くと、飛行形体に変化する。
「ほんと?」
 素直に喜んで、もろははその笠に跳び乗った。
「でも、竹千代にしちゃ大盤振る舞い過ぎない?」
「人の厚意を無下にする気か?」
「そうじゃないない。ありがたく乗せてもらいますぅ~」
 もろははそう言って笠の上で寛ぐ。
「そういや、今朝は何食ったんだ? 口赤かったけど」
「あっ……」
(気付いてたのか)
「……仕事が終わったら、教えてやるんだぞ」
「楽しみにしとく。美味いもの?」
 竹千代は昨日の感触を思い出した。
「俺にとってはな」

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