宇宙混沌
Eyecatch

子供の遊び [2/9]

「今日の相手は?」
「……極楽鳥」
「お前、そんなの倒せるのか?」
「やるっきゃないだろ! 今日金を出せる仕事はそれだけって言われたんだよ!」
 竹千代の笠の上で、もろはは懐の紅を触った。
「……ズルしないか見張っててやるんだぞ」
 紅は危険だ。竹千代はもろはが売られる直前、梁の上で姿を消して、もろはの師匠の話を一部始終聴いていた。
(実際、極楽鳥程度で手間取るようなら、理玖様の依頼は熟せないけど……)
「勝手に帰るなよ!? さっきの運賃、往復分だからな?」
「わかってるんだぞ」
 竹千代は極楽鳥の巣の近くにもろはを降ろす。自分は姿を消して、少し離れた茂みに陣取った。
 そのままじっと待っていると、極楽鳥が現れる。もろはとの交戦が始まった。
(あれは駄目なんだぞ)
 昔何かあったのだろうか。もろはは端から及び腰で、刀を十分に振れていない。
(毒吹き矢程度で止まる相手じゃないが……)
 もろはが攻撃を避ける際に倒れる。仕方ない、と竹千代は懐から矢を取り出し、狙いを定めて吹いた。
「なんだぁ!?」
 極楽鳥が竹千代の居る方を向く。
(大丈夫だ、姿を消してるんだから)
「今矢を撃ったのはどいつだああぁ!?」
 しかし極楽鳥は逆上し、周囲の木々を薙ぎ倒しながら竹千代の方へと突進する。竹千代はその迫力に思わず短く叫んでしまい、それで極楽鳥は居場所を掴んだ。速度を上げて迫ってくる。
「竹千代!」
 もろはは紅を差した。先程とは桁違いの速度で極楽鳥を追い、その翼を爪でもぎ取る。刀でとどめを刺して、もろははほっと息をついた。見えない相手に怒鳴る。
「なんで手ぇ出すんだよ!」
「今にも殺されそうになってたくせに、まずは礼を言うべきだぞ」
「そりゃこっちの台詞……」
 もろはは途中で意識を失う。人の姿を現すと、竹千代はもろはを受け止めて地面に寝かせた。
「あーもう、放って帰って良いか?」
 竹千代は貝を取り出し、獣兵衛の意見を伺う。
『……丸一日寝続けるんだろ? 付き合ってやるか連れて帰ってくるかだな。勿論首もだぞ』
もろはじゃないと首落とせないんだぞ」
『それじゃ、そこで野宿だな』
「ええ~? 俺だけ帰りたいんだぞ~」
 帰りの運賃は貰ったが、一晩見張るなんて聞いていない。
『もろはも一応女なんだから』
 言われて渋々、竹千代は貝を置く。隣で寝息を立てる少女の顔を見た。
「紅似合わないな」
 幼い顔にはまだ早い。指で拭ったが、半分程しか落ちなかった。
(しかし、本当に起きないんだぞ)
 もろはの紅夜叉の姿を見るのは初めてだった。圧倒的な強さに惚れ惚れした一方、無防備に眠る姿に心配と劣情を抱く。
(……この状況で一番危険なのは俺なんだぞ)
 眠っている間に他の妖怪や見知らぬ男なんかに襲われないよう、獣兵衛は竹千代に傍に居るよう申し付けたのではないのか。
(でも……)
『良い女じゃないか』
 他人にはそう見えるのか。竹千代も毎回もろはの仕事には付き合えない。
(俺の居ない間に、誰かに奪われるくらいなら……)
 紅を舐め取るだけだ。そう自分に言い聞かせて、竹千代はもろはに口を寄せた。

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