宇宙混沌
Eyecatch

子供の遊び [1/9]

「竹千代が貝を忘れて行った。仕事に行くついでに届けてくれるか?」
「その分報酬弾んでくれる?」
「竹千代から貰え」
「仕方ねえな」
 もろはは獣兵衛から白い巻き貝を受け取ると、屍屋を出た。竹千代が仕事に出てから、まだそんなに経っていない。何処に向かったかは匂いで辿れる。
「町じゃん」
 てっきりちゃんと賞金首を狙いに行っているのかと思いきや、着いたのは隣町だった。人が増えて匂いが追いにくくなる。目を閉じて集中すると、竹千代の気配があった。
「竹千代!」
 商店の角を曲がって叫んだが、そこに居たのは見目の良い若い男二人だった。
「あれ?」
「もろは。どうしたんだぞ?」
 そのうちの片方、髪が短く目付きの鋭い方が口を開いた。もろはは改めて匂いを嗅ぐ。竹千代だ。
「なんだお前、男前に変化できるんだな。ほれ、忘れ物」
「あっ! 気付いてなかったんだぞ。助かる」
「届けてやったんだから礼金ちょうだい」
 竹千代は財布から銭を取り出して渡した。少額でも機嫌良く笑うもろはに、竹千代も微笑む。
「そいつぁ、竹千代の好い人かい?」
 もう一人の美丈夫が尋ねた。
「ちっ、違います!」
「お前は誰?」
「こらもろは! 頭が高いんだぞ」
「構わねえよ。おいらはまあ、屍屋[あんたら]んとこの客の一人さ」
「ふうん」
「『ふうん』じゃない! 一番の上客様だぞ!」
 もろはの態度に竹千代はハラハラする。隣の美人に頭を下げた。
「後輩の無礼を代わりにお詫びします、理玖様」
「まあまあ、おいらは気にしてねえって。飾り立てしなくて良い女じゃないか」
 良い女、なんて言われてドキッとしたのはもろはだけではない。
(理玖様何考えてるんだぞ~? もろははまだ十二なんだぞ!)
「理玖様、俺の用事は済んだので、さっさと行きましょう。ほら、もろはも仕事なんだぞ?」
「ああ、今日はやっぱり良いや。あとは若いので楽しみな」
 理玖は竹千代に暇を出して、消える。突然目の前から居なくなった理玖に、もろはは腰を抜かした。
「そんなに驚かなくても」
 姿を消すくらい、竹千代だってよくやっている。
「人間だと思ってたんだよ! あいつも狸か何かか?」
「口止めされてる。でも、妖怪ではあるんだぞ」
 竹千代はもろはを引っ張り起こす。もろははその手を両手で包み込んで、竹千代に甘えた。
「ね~暇なら仕事場まで送ってよ」
 そのままいつもの癖で抱き締めようとして、近付いた顔に胸が高鳴った。
(こいつ本当に男前に変化するな)
 さっきの理玖とかいう男と並ぶと霞んだが、至近距離で見ても粗が無い整った顔をしている。
「何じろじろ見てるんだぞ」
「いや、竹千代変化上手いなと思って。ずっとこっちの姿で居ればいいじゃん」
「これは理玖様のご要望なんだぞ。この姿は色々面倒だから、子狸の姿が性に合ってるんだぞ」
「よくわかんねえけど、そうなんだ。で、送ってくれる?」
「運賃はもらうぞ」
「ちぇっ」
 もろはは先程貰ったばかりの銭を、竹千代に返す。
「確かに」
 竹千代はそれを財布に戻すと、町の外にもろはを連れ出した。

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