第10話:林檎の瞳、命の赤 [5/5]
「えっ、小学生と付き合ってるの?」
「あっ、一応中二です……」
「それでも菊之助より小さいじゃない」
会場にて。竹千代は第一にして最大の難関、母親による品評に挑んでいた。まずはもろはを紹介して、お叱りを受けているところだ。
「こんな小さい子だなんて。貴女も貴女よ、我が息子とはいえ男の家に泊まるなんて。お家の人はなんて言ってるの?」
「何も言ってないっていうか、寧ろ竹千代と一緒に居るなら安心的な……」
母親は呆れて言葉が出ない。
「泊まらせたことは反省してます。今後はないようにしますので。行こう」
服の品評まで受けていたら、狸穴との勝負の前に心が折れてしまいそうだ。理玖と合流しようと場内を探していると、竹千代の肩に大きな手が置かれた。
「中学生に手を出したとは感心せんなあ竹千代君」
ニマニマと顔を歪めた狸穴が居た。竹千代はさり気なく手を退かす。
「手を出したって証拠は? 俺に監視でも付けているんですか?」
(無表情で居ろよもろは)
取り繕うのが下手な彼女を後ろに庇う。
「いやあ、考えたことはあるがね。なにせ君は昔から手癖が悪いし」
「っ! てめ――」
「居た居た竹千代! 探したぜ!」
もろはが怒鳴りかけて焦ったところ、理玖が駆けつけて遮ってくれる。
「ん? 貴方は?」
「おい……私は――」
「理玖! 突然走り出してなんなのみっともない」
今度は背の高い女性が現れて理玖を叱る。彼女は傍に立っていた男に気付くと、姿勢を正す。
「あら、狸穴さん。今回もお招きいただきありがとうございます」
「いえ、こちらこそ来ていただいて。もしかして、是露さんの弟さんで?」
「ええ、末の理玖です」
「初めまして、ではないんですけどね。五年前の狸平のパーティーにも参加させていただいてました」
(筋書き通りじゃないけど、状況は整ったな。七宝さんは?)
竹千代は視線だけで探すが、見つからない。近くに居ることを祈ろう。最悪、自分達だけで。
「そうじゃったか? いや歳取ると物忘れがひどくてな」
「竹千代君と親しくさせてもらってます。アネさん、こちら狸平竹千代君です」
「ああ、あの時の」
(よし、アネさんは覚えててくれたか)
(アタシの出番だな)
もろはが何かを囁く振りをして、竹千代の隣に出てきて背伸びをした。
「随分大きくなって……」
是露の言葉は途切れる。視線の先は、もろはの頭だ。
「……その簪……」
「ん? これ? 竹千代がくれたんですけど」
「家にあった、鍵の開かなくなった箱をこじ開けたら出てきたんです」
「どうかしやした? アネさん」
「いや……。ほら、五年前のパーティーの時、簪を失くしただろう? それにそっくりだと……」
「ええ!? あのアネさんのハンドメイドの一点物ですか!?」
(理玖様、演技が大袈裟)
しかしこれで狸穴にも伝わったらしい。新しい玩具を見つけた子供のように、狸穴は心底楽しそうな、そしていやらしい顔をしていた。
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