宇宙混沌
Eyecatch

第10話:林檎の瞳、命の赤 [3/5]

「なんでって、竹千代が告白してきたからだけど」
「なるほど参考にならん」
 とわもろはの中学の前で彼女を掴まえた。
「告白されてOKしたってことは、もろはも元から好きだったんだよね?」
「まあ嫌いじゃなかったけど」
「えっ、もろはも付き合いたかったんじゃないの?」
「微塵も考えたことなかったな」
「じゃあなんでOKしたの!?」
「んー、その時『好きかも』って気付いた的な……」
「なるほど参考にならん」
「質問攻めにしといて礼の一つも言えねえのかよ」
「ごめん。ありがとう。参考にする」
「取ってつけたように言いやがって。とわはあの理玖って人のことが好きなわけ?」
 もろはは竹千代のマネキンになる約束をしているので、彼のアパートへと歩き出す。とわもついてきた。
「うーん、一緒に居るとドキドキすることはある」
「アタシは竹千代と居てもあんまりしねえな」
「理玖さんに言い寄る人間が他にも居たらどうしようって夜も眠れない……」
「あー、竹千代も学校じゃモテるみたいだけど、そこは竹千代の人間不信とコミュ障を信じてる」
「言い方……」
 しかしもろはの言葉は本質を突いている。要は全て、とわが理玖に愛されている自信が、自分だけを見てもらえている確信が無いから出てくる悩みだ。
「うだうだうじうじするくらいなら、さっさと告白しちまえば? それとも何、告白は男からしてほしいタイプ?」
「そ、そういうわけじゃないけど」
(本当に好きなのかもよくわからないんだもん。付き合ってみてやっぱり違うってなったら、失礼じゃない?)
「それじゃ、アタシはこっち」
 もろはとわには屍屋の方向を指差して、角を曲がって行った。とわは気合を入れ直す。
(とにもかくにも、お近づきだよね!)
「こんにちは~」
 今日は金曜日。理玖は客として店に居るはず……と思ったのだが。
「どうも」
「あれ? 理玖さんが店員?」
 カウンターの奥に座った理玖を見て、とわは首を傾げる。
「竹千代がもろはのドレスに付きっきりですからね」
 とわのドレス代の為だとは言わないでおく。言えばこれまでのプレゼントが自分の金ではないことがバレてしまう。
「なるほど。もしかして仕事の邪魔ですか?」
「とんでもない。唯一の常連客のおいらがこれじゃ、今日は誰も来ませんよ」
 とわはカウンターまで行くと、鞄から慎重に包みを取り出した。
「それは?」
「買ってもらってばかりで悪いから、片方は理玖さんにあげようと思って」
(なんて、ペアの物の片方押し付けるなんて、下心見え見えかな?)
 とわは包みの中から、この前の緑と赤の林檎を取り出す。
「良いんですか? とわさん随分お気に召してらしたじゃないですか」
「いいの! 好きな方選んでください」
「それじゃ」
 理玖は迷わず赤い方を選ぶ。
「こちらで。貴女の目の色に似ています」
「そ、そう……」
(それ、つまりどういう意味……)
(あー、ちょっと引かせたかもしれねえ)
 二人の気持ちはすれ違う。とわはどぎまぎしながら理玖の顔を覗って、気付く。
「あれ」
「どうしやした?」
「理玖さんも目の色黒じゃないんですね。緑?」
 奇しくも残された林檎の色と似ていて驚く。
「ああ、姉弟[きょうだい]全員緑ですね。うちも何代か前に西洋の血が入ってるみたいなんで」
「そうだったんですね」
「竹千代みたいに外人顔じゃないから、なかなか気付かないでしょう」
「はい。でも、嬉しいです。色んな目の色の知り合いが増えて」
 とわはただの色素欠乏だが、それで苛められたこともある。そこまでいかなくても、初対面の人は皆、多少はぎょっとしたり好奇心の目で彼女を見る。
(でも屍屋[ここ]で知り合った人はそんなことなかった)
「良かったら、竹千代さんの件が片付いても、友達でいてください」
「もちろんですよ」
(うーん、「友達」かぁ……)
 理玖は笑顔を崩さないように気を付けつつ、内心は少し落ち込む。やはりお互いどこかズレている。
(この件落ち着いたら、竹千代にどうやってもろはを口説いたのか訊くとするか)

闇背負ってるイケメンに目が無い。