宇宙混沌
Eyecatch

第10話:林檎の瞳、命の赤 [1/5]

「今度の狸平グループのパーティーに行きたい?」
 是露は弟の言葉を鸚鵡返しにした。
「珍しいこともあるものよ」
「いやあ、おいらももう学部を卒業するし、コネは作っておかないとと思って」
「ふん。どうせ好きな女が参加するからとか、そういう理由だろう」
 当たってはいないが完全に外れでもない。姉を騙すのは理玖には難しい。
(けど、簪の件はサプライズにしないといけねえし、そういうことにしておくか)
「ま、まあ……」
「それなら、お小遣いあげるから、新しい服買っておいで」
 これまでに貰ったお金から、とわのドレスの資金まで出そうとしていることに心が痛まないわけではない。父親の遺産を相続した竹千代ですら真面目にバイトをしているのだ。自分も働くべきだとは重々解っていて、それでもまだ、何処か絵空事で。
「ありがとうアネさん!」
 でも、このままじゃ駄目だ。せめてとわの服は、自分で稼いだ金で買おう。
「というわけで竹千代、お前が服作ってる間は俺が代わりに店番するよ」
「俺は良いけど、雇用契約は獣兵衛さんと結んでください」
「解ってるって。お、これ試作品か?」
 理玖は竹千代の衣装部屋にかかった、少しバランスの悪いスーツを示す。
「それは七宝さんが作ったやつ」
「えっ?」
(なんというか……)
「結構しょぼいんだぞ」
「竹千代、もっとオブラートに包め」
「七宝さんも自分で言ってたし。スーツの専門家じゃないからしょうがないぞ」
「それでおいらに、昔着てたスーツ持って来てくれって言ったのか」
「それを見本に何とかするんだぞ。もろはのドレスに時間かけたいので」
「彼女思いなこって」
「理玖様も」
「おいら達はまだ」
「まだ?」
 竹千代が含みのある笑みを浮かべる。
「なんでもねえ! じゃあこれ頼まれてたやつ!」
 紙袋を竹千代に押し付けて、理玖はアパートを出た。

闇背負ってるイケメンに目が無い。