宇宙混沌
Eyecatch

第1話:屍屋骨董品店 [3/4]

「悪い、迎えに行くって言ってたのすっかり忘れてたんだぞ」
 竹千代は努めて呑気な声を出しながら、理玖の後ろから顔を出した。怒鳴った少女が呼んでいるのは自分の方だ。
「いや、別にそれは構わないんだけど……」
「あー! 貴方ですね!?」
「本当にジュリアンに似てるな……」
 もろはが連れて来た美少女の白い方が叫び、黒い方が納得したように頷く。
「お嬢さん方はどういったご用件で?」
 理玖は白い方から目を逸らさずに言った。いや、逸らせずにいた。
「そこのほくろのある人に用があります」
「だろうな。とにかく、中へどうぞ」
 竹千代は着物を商品に引っかけないようにして踵を返す。狭い店内に、竹千代、理玖、もろは、とわ、せつなの五人が収まった。もろはは戸を閉める前に、戸にかかった札を「Closed」に裏返しておく。
「私達は聖ガブリエル学園に通ってる、もろはの従姉のとわせつなです」
「ガブ[ジョ]? それ昇陽中の制服だぞ?」
 せつなの方は確かにガブ女の制服だが、とわが着ているのは竹千代も数年前に着ていた服だ。竹千代はレジの向こう側に陣取り、とわの姿を観察する。もろはと似てはいないが、もろはが否定しないので、従姉というのは嘘ではないのだろう。
「ガブ女はスラックスが選べないので、転校前のを。って、私の話は良いんです! 貴方は!?」
「屍屋の店員の竹千代と言いますが」
 思い出したように丁寧語で返す。もろはがツッコミを入れた。
「昇陽高校だろ、一応」
「あんまり真面目に行ってないんだぞ」
「えっ、元同じ学校!?」
「そういえば、昇陽中の誰かに似てたとかなんとか……」
 せつながスマホを取り出して確認する。
「えっと、何て読むんだ、これ……」
「それより、用件を聞いても? あまり長く店を閉めてられないので」
 竹千代はその名が読み上げられる前に話を元に戻した。とわが背筋を伸ばし、カウンターに手を突く。
もろはのこと連れ回すのやめてもらえませんか?」
「だから連れ回されてないって!」
「こっちは昨夜ものすごく心配したので!」
 喧嘩にならないか心配だ。理玖とせつなは顔を見合わせつつも、一先ずは見守る。そんなとわの剣幕にも、竹千代は怯まない。
「心配しただけなんだぞ?」
「え?」
「お前達がいつも心配しかしないから、俺達は――」
「はーいストップストップ!」
 これ以上は良くない。理玖はカウンターに肘をついて、二人の間に挟まる。
「直接話すと熱くなっちまうからさ、ここはお兄さんが話を聞いて、後で要約して竹千代に話すよ」
 にこっと笑いかけられたとわは、ドキッとして一歩後ずさった。
(ちょ、ちょっとかっこいい……。ちょっとだけね……)
 見ず知らずの男に靡くなんて、もろはと同じ穴の狢だ。
「じゃあそういうことだから。竹千代、また来るぜ」
「出る時札ひっくり返しておいてください」
 理玖は竹千代ともろはを残し、二人の少女を連れて外に出る。戸の札を「Open」にして、気を取り直した。
「さて、お兄さんが奢ってあげるから、喫茶店にでも入るかい?」

闇背負ってるイケメンに目が無い。