宇宙混沌
Eyecatch

第1話:屍屋骨董品店 [2/4]

「理玖様はしたことありますか?」
「何を?」
 理玖は大学が早く終わる金曜日に、いつも「屍屋」に足を運ぶ。お値打ちの本を毎週たくさん仕入れておいてくれる、優秀なバイトが居るからだ。
「……セックス」
 理玖はそのバイトの少年から発せられた言葉に、本を読んでいた顔を勢いよく上げる。頭上に吊り下がっていた商品に頭をぶつけた。
「壊さないでほしいぞ」
「大丈夫、セーフセーフ。……突然何言い出すんだよ」
「前々から訊きたかったけど、獣兵衛さんが居るところじゃちょっと」
「そりゃそうだ。けどなんでおいらに」
「女慣れしてそうな顔してるんだぞ」
「それは……そうだな……」
 さてどう答えたものか。理玖は、自分の顔が良い自覚はある。しかし彼女いない歴イコール年齢でもある。
「竹千代はしたことあるのかよ」
「うん……」
 理玖は今度は持っていた本を落とした。
「悪い、買い取るよ」
「んーそれは千五百円」
「はい、ぴったり。……竹千代何年生だっけ?」
「留年したから高一のままだぞ」
「そうか。相手は?」
「中二」
「ハァ!?」
「合意の上だから法律的にはセーフだぞ」
「いやそうかもしれないけど……。もしかして、相手はもろはちゃんかい?」
「そうです」
 理玖は頭を抱えた。どうしてする前に自分に相談してくれなかったんだ。いや、こっちのが経験が浅いのは解っているが、そうじゃなくて。
「……それで、お前さんは何か変わったのかい?」
 変えられたのかい? 捨てられたのかい? その胸に抱えた寂しさを。そこまで追い詰められることになった原因を。
「変えられなかった……」
 レジ打ちを済ませ、竹千代は項垂れる。
「俺が変われなかったのなら、もろはもきっと――」
「すみませーん!!」
 言葉の途中で、店先から少女の声がした。
「ちょっ、とわ! 近所迷惑!」
「責任者の方出てきてくださーい!」
 もろはの声もしたが、何かただ事ではなさそうだ。
「今、店長は留守にしていて――」
 店先に出ようとした竹千代を、理玖が制す。
「ま、未成年は大人しく待ってな」
「いや、理玖様はお客さんなのに……」
「どうかされましたか?」
 理玖は本を鞄に突っ込みつつ、店先に出る。
「貴方が昨日もろはを軟禁してたんですか!?」
「だから! 軟禁とかされてないし!」
「とわ、声が大きい。見られてるぞ」
 そこには、右隣に赤いリボンをつけた小柄な少女、左隣に綺麗な顔を呆れさせた少女をひっつけて、真ん中に真っ白な美少女が立っていた。
 理玖はその時知った。一目惚れってこんな感じなのかと。

闇背負ってるイケメンに目が無い。