第1話:屍屋骨董品店 [1/4]
「ねえねえ、あの校門のとこのさあ……」
「えっ!? 昇陽中の狸平君じゃ!?」
「狸平って狸平グループの?」
「そうそう。でも、菊之助君ってもっと小っちゃくなかった?」
「えーじゃあ誰? あのジュリアン似のイケメン」
もろはは四方八方から聞こえてくる噂話に俯いた。登校時刻、周囲の生徒達の視線は、自分達に向いている。
「それじゃ、放課後迎えに来るぞ」
「来なくていいよ!」
もろはは此処まで送って来てくれた少年に噛みついた。
「お前目立つんだよ! せめてその羽織は置いてこいよな!」
「だって今日寒いし」
少年は指差された紅葉色の小袖の前を閉めた。下に着ているのは普通の洋服だが、古着屋で叩き売られていたこの着物が、使いやすくて気に入っている。
「まあ、俺も捕まる前に逃げるんだぞ」
言うと少年はひらりと着物を翻し、その場を去った。直後に教員が駆けつけ、もろはに怒鳴る。
「日暮さん! 昨夜何処に居たの!? 保護者の方から『帰ってこない』って電話があって心配したんですよ!」
「もろは援交してたんだって!?」
放課後、迎えに来たのは少年ではなく、従姉のとわとせつなだった。
「援交とか死語」
「それはどうでもいいよ! 男の人の家に泊まったって本当!?」
「あーそれはほんとほんと」
今日一日、授業時間以外は教員にも生徒にも質問攻めにされた。これ以上相手にしたくないもろはは先を急ぐが、従姉の双子は遅れないようについてくる。
「ねえもろは~。私達もろはが不良になっちゃわないか心配なんだよ~」
「毎日喧嘩喧嘩のとわに言われたくねえ」
「私も心配だ。養父母と上手く行ってないなら、うちに来れば良いのに」
せつながもう何度目かになる提案をする。
「そうだよ。そしたらバイトとかもしなくていいし――」
「アタシがしたくてしてるんだからいーの!」
道を渡り、角を曲がる。
「いつまでついてくる気だよ!?」
「バイト先まで」
「どうせそこで知り合った男なのだろう?」
(うげ、バレてる)
もろはは昨夜のことを思い出し、顔を赤くした。
「正確に言うと、知り合ったのが先で、それでバイトを紹介してもらったんだよ」
「そんな細かい事はいいよ……」
「つか、なんで今朝の事がもう他校のお前らの耳にも入ってんだよ」
「せつなの部活仲間がLINEグループで知ったって」
「昨夜行方不明になっていたもろはが、ジュリアン似の年上の男と一緒に登校してきたとな」
「くっそ~だから門までは送らなくて良いって言ったのに~」
最後の角を曲がる。向かう先には、渋い提灯型の看板を下げた、小さな骨董品屋があった。
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