第5話:あとは二人で [3/4]
(竹千代の「Mom」しか解らなかった……)
とわが突然の英語に呆気にとられていると、気付けば全てが終わっていた。
(竹千代のお母さん、綺麗なブロンドだった……あと若かった……)
自分の母親も十八で子供を産んだことは棚に上げている。
「すみません、二人共。俺、家の用事で帰らないと……」
この格好のまま帰れば、また母親の機嫌が悪くなる。不本意だが、言われた通り、彼女がデザインしたコートを取りに一度下宿に戻ろう。
「気にすんなって。こっちこそ、こうなること予測できなくて悪かったな」
「似合う服は教えてもらったし、この後は私達だけで頑張るよ」
その発言に、理玖は胸を躍らせる。
(「この後は私達だけで」!?)
それはつまりデートなのでは。
「そうですか。それじゃ、俺はこれで」
「今日はありがとう。また!」
竹千代が姿を消した後、理玖は尋ねる。
「とわさんも此処で何か買いますか?」
「んー、折角クーポン貰ったけど、私はShippoに行きたいかな、さっき竹千代さんがお勧めしてくれたお店。あと、『さん』とか付けなくて良いですよ」
「それなら、おいらのことも呼び捨てタメ口で構いやせんよ」
「え……」
いきなり「理玖」と呼ぶのはなんだか気恥ずかしかった。
「まあ強制はしやせんが」
「はは……。ところで、竹千代さんはなんで理玖さんのこと様付けで?」
「慇懃無礼ってやつです。それじゃ、会計してきますんで少々お待ちを」
(さてどうする?)
レジの列に並びながら、理玖は頭を悩ます。
(一緒に行くからには、おいらも意見を言ったりしてアピールしておきたいが、おいらみたいなド素人の意見でとわ様にダサい格好をさせるわけには……。いや待てよ、おいらには可愛く見えて、周囲にはダサく見えれば……いやいや駄目だろ、やっぱり)
「お待たせしました」
結論、出たとこ勝負だ。理玖がとわと合流すると、とわはふわりと優しい光のように微笑んだ。
「たっ、高~」
とわは最寄りのShippoのショップで、思わず呟いた。どこが「ちょっと高め」だ、raccoon dogの倍近いのだが。
「おいらが買ってあげますよ」
「いっ、いえ、そんなわけには」
「良いから良いから。ほら」
理玖はとわが持っていたブラウスを奪うと、姿見の前にとわを連れて行く。
「良くお似合いだ」
「~~!!」
後ろから包み込むような格好で、体の前にブラウスを当てられる。それが大きな姿見のせいではっきり見えて、とわは顔を赤くした。
「こっちの躑躅色のスカートもどうでしょう? 目の色と良く合いそうです」
(ビビッドカラーとかなんとか言ってたよな?)
竹千代の言葉を思い出しながら必死で提案する。
「スカートかあ……こんなに長いのは喧嘩できないな……」
「喧嘩?」
「ううん、何でもない」
(でも、確かに良いかも)
「……本当に良いんですか? 買ってもらっちゃって」
「良いんですよ」
(竹千代が出した額を超えねえと、印象薄くなっちまうだろ)
「その代わり」
理玖はとわにウインクしてみせた。
「是非この服を着て、また一緒に出かけてもらいたいものですね」
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