第7話:陸に上がった海賊 [3/3]
帰りは紫佑に言われ、女に神社まで送られることになった。相変わらず自分のこと信用してねえじゃねえか。
「思い出した」
道中、隣を歩いていた女が呟く。
「『理玖』って紫佑ちゃんの本名だった。道理で声が似てると思った」
女はまじまじとおいらの顔を覗き込む。
「この顔を見たことなかったんです?」
「変化してるとは言ってたけど、『紫佑』で居るときはあの顔から変えられないもん。何処で誰が見てるかわからないし、最初に会った時からあの姿だったし」
「なるほどね」
「一度だけタイムスリップしたとかなんとか言ってたけど、まさか本当だったとは」
「……あんたは『紫佑』の何なんです?」
「私? 表向きは奥さん」
やはり、と肩を落としたところに、女は続けた。
「実のところは紫佑ちゃんの孫」
「孫!?」
「しっ! 声が大きい」
孫、はは、孫とは……。どう反応したら良いのかわからず、額に手を当てて呻る。
「私が東京でメイクアップアーティストやりたいって無理言ってさ。じゃあ、お祖父ちゃんが名を変え姿を変え、ずっと日本に住んでるから、なんとかしてもらいなさいって」
「へえ……」
「まさか夫婦って身分をでっち上げるとは思わなかったけど、そう言っておくと怪しまれる事が少なくて便利だったんだよね」
「おいらが今日訪ねてくる事も、あいつに聞いてたんですかい?」
「私が言われてたのは、私の職場にオイラって一人称の妖怪が来たら名刺を渡せってことと、今朝は絶対に予定を入れずに早起きしろって事だけ」
日暮神社の下まで来る。孫娘は階段を上ろうとした。
「此処までで良いですよ」
どこまで信用されていないんだか。
「神社の中の物陰から瞬間移動で帰りたいの」
なるほど。その力は受け継がれたのか。
「あーじゃあ、あの白い女の子がお祖母ちゃんだったのか」
その呟きに、おいらは視線を下げた。孫娘も会った事が無いとは。とわ様は、そう長くは生きていらっしゃらなかったのか? いや、この娘はおいらの顔や名前もあやふやだったくらいだし、とわ様も名や姿、立場を変えて何処かに……。
「十八歳には見えないし怪しいなとは思ってたけど、妖怪なら納得」
「実際まだ十五ですよ」
「え゛!? やだーロリコンじゃん」
「ろり……?」
「ま、色々思うことはあると思うんですけど」
階段の一番上まで来て、孫娘はやっとおいらから離れた。
「紫佑ちゃんは目的がある事しか言わないし、しないよ。意地悪で何も教えなかったわけじゃないと思う。宝箱を開けてみてのお楽しみってとこ?」
「……ええ。そうでしょうね」
「それじゃあさよなら。写真、大事にしてね」
言うと娘は木の陰へ。耳の横の髪を持ち上げ、隠していたピアスを弾いて消えた。
もっと話せば良かった。彼女の姿が消えてからそう思う。まあ、五百年後には夫婦の仮面を付けて一緒に暮らすことにはなるのだが。
信じてみるか、自分を。既に結果を知っている相手に張り合っても仕方が無い。
この世界に続く道が途切れないように進んで、とわ様に出来るだけの事をしてやって、五百年後、幼い自分に「とわを幸せにできた」と答えられるようにする。おいらがすべき事はそれだけだ。
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