第4章:貴方だけのお姫様 [3/3]
「そ、そういうものなのかなと思ってた……」
「へぇ」
私の手が頬に触れたまま理玖が喋るもんだから、口の動きがダイレクトに伝わってきて変な感じ。理玖の緑の目が瞬いて、問う。
「早すぎるって知ってたら、断ってました?」
「どうだろう……」
結論として理玖も私の歳をちゃんと知らなかったんだし、私だけが知っていて断ってたら、変な誤解を招いた気がするな。
と、そこで気付く。誤解されたくなかったんなら、私だってちゃんと、理玖と結ばれたかったのかもしれない。
手を重ねているのと反対側の理玖の腕が、私の腰に回った。緑の瞳が近付いて来る。唇に理玖のものが触れて、生暖かい舌をねじ込んできた。
「……まだ早いって判っててそういう事するの?」
「だから今更じゃないですか。もっと凄い事しないと、こんなことになってやせんよね?」
「うう……」
「やっと『おいらの姫様』と堂々と言えるようになったんです。おいらは暫くしたら西に戻りますし、少しの間、味わわせてくださいよ」
おいらの姫様。その言い方が少し引っかかる。
「……父上と何かあった?」
「いや別に?」
「だって無理矢理お酒飲まされたんでしょ? ごめんね。父上が意地悪して」
「おいらが自分で飲んだんですよ。実を言うと、耳飾りも最初に外したんです」
「ええっ。そんなの、丸腰で意識不明になっちゃうじゃん。父上は毒も出せるのに」
「そのくらいしなきゃ、信用してもらえやせんからね」
「どうして……」
「とわ様」
頭をぶつけないように抱え込まれながら、後ろに押し倒される。耳の横で理玖が囁いた。
「おいらのことを麒麟丸と別の個体と見てくれているのは、とわ様くらいのものなんですよ。おいらの体が麒麟丸の角からできていて、麒麟丸とりおんお嬢様の魂魄で動いている事は否定できやしない事実です」
「でも、理玖は理玖じゃない」
理玖が私を抱き締める力が強くなる。
「だからそうやって言ってくれるのがとわ様だけなんですって。殺生丸様やせつなからすれば、おいらは憎き敵の置き土産に過ぎないわけです」
「理玖……」
私だって麒麟丸のことは憎く思う部分もある。何より、せつなを殺した奴だ。あれだけは多分一生許せない。でも、それに理玖は何の関係があった? 理玖は自分の生みの親や主人に、ただ従っていただけじゃないか。
生まれがそうだから仕方ないところもあるのかもしれない。けど私には、理玖が必要以上に自分を「価値が無いもの」と考えているように思える。
確かに理玖には、麒麟丸の様な強さは無いかもしれない。でも、強くなければ幸せになっちゃいけないなんて決まりも無い筈だ。
強くなくったって、理玖は他の誰よりも、私の事を見守って、愛してくれたじゃないか。私にはそれだけで十分だ。
おいらの姫様、か。うん、私、理玖だけのお姫様でも、良いよ。
「……しよっか?」
「とわ様から誘っていただけるのは嬉しいですが、流石にお腹の子に障りますので」
その言葉がきっかけで、理玖は起き上がってしまう。頬を膨らませていると、理玖はニヤリと笑ってもう一度口付けた。
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Written by 星神智慧