宇宙混沌
Eyecatch

第4章:貴方だけのお姫様


「うう……」
 瞼を開ける。もう陽は高いようだ。隅の方に寄っていたが、昨夜通された部屋に転がされたままだった。薄い着物が一枚、体にかけられている。やけに静かだ。
「あ、起きた?」
 胸元を[はだ]けた姿のとわ様が気付き、寄ってくる。
「とわ様、もうちょっと前を閉めてくだせえ」
「えー良いじゃん自分の[うち]だし。理玖の方こそ、アルハラは毅然と断らなきゃ駄目でしょ!」
「あるはら?」
「アルコールハラスメント」
「なんとなく解りました」
 乱れた髪を手で[]いていて、耳飾りを外していたことを思い出す。周囲を見渡すが、見当たらない。
「とわ様、おいらの耳飾り知りやせんか?」
「ああ、クロが遊ぶと危ないから預かってた」
 とわ様の懐から出てきたそれは、とわ様の温もりがする。受け取って、耳に付ける。
「随分静かですが、他の方々は?」
「せつなは仕事。他の皆はおばあちゃん……父上の母上の所に」
 はあ、じゃあ二人きりってことですかい。……って、阿呆なのか殺生丸! 寝てるおいらと身重のとわ様だけって、その間に何かあったらどうすんだ!!
[いつ]っ……」
 怒りで手元が狂う。とわ様が笑った。
「も~。ピアス付けるの下手だね」
「付けっぱなしで、外す事ないですからね」
「寝てる間に外れちゃったの? 父上が見つけたみたいなんだけど」
 答えは濁す。付けてくれると言うので、渡して髪の毛を掻き上げた。
 しかし殺生丸め、この状況で二人きりにするなんて、妖怪にとわ様を襲ってくれと言っているようなものじゃないか。いや、いざとなったら流石においらが起きるだろうと、信用してくれたのか? 気力でなんとかなるものじゃないんで、この場合は困るが。
「できた」
「ありがとうございやす」
 改めてとわ様に向き直る。とわ様は少し頬を染めて、目を逸らした。
「あのさ、どうして赤ちゃんのこと知ってたの? 母上が色々言っても驚かなかったよね?」
「もろはに聞きました」
「あ、そっか。屍屋に寄ったって言ってたね、そう言えば……」
 もじもじとしているとわ様の手を取る。一つだけ、言わなくてはいけない事を思い出した。
「おいらとの子、産んでくれるんですね?」
「もちろんだよ」
「ありがとうございます」
 手を引き寄せて指に口付ける。とわ様は真っ赤になった。
「そんな。だって[]ろすとか考えられないし。理玖が喜んでくれて、良かった」
「喜ばないわけないでしょう。何の為に一緒に寝てると思ってるんです?」
 掴んだ手を広げさせ、自分の頬に当てる。首を傾げてとわ様の顔を見れば、すっかり茹蛸の様になっていた。
「とわ様、今更何を照れてるんですかい?」
「だ、だってそんなストレートに言われたら……。私の歳じゃまだ早いって思ってたのもあるし……」
 ん?
「……そういえばおいら、とわ様がお幾つなのか知りやせんね」
「もうすぐ十六だよ。あ、数え年だと今十六歳」
「十六!?!?」
「声でっか」
「すいやせん。……てっきりもっと上かと……」
「ああ、私、この時代の人の中で比べたら背が高いし、年上に見られがちだよね」
 十六かあ~。やらかした。そりゃ、妖怪の長い寿命の中での二、三年は大したことないが、それは成長しきった妖怪の場合の話だ。人型の妖怪は十代半ばから二十歳前後で妖怪として成熟することが多く、それ以降は年齢がわかりづらい。とわ様もてっきりそうなのだと。
「誕生日も去年は船の上ですっかり忘れてたしねー……。あれ? でも、是露[ぜろ]とつるんで色々やってた時期でわかるんじゃ?」
「おいら、一回死ぬ前を含めたら六百年は生きてるんですよ? 十年二十年なんてあっという間ではっきり憶えてやせん」
「そっか」
「……ちなみにとわ様の母君がとわ様を産んだのは?」
「確か、邪見が数えの十八って言ってた」
「……なるほど」
 完全にやっちまった。殺生丸[ひと]の事を言えた立場じゃねえ。
「ああ、でもほら、父上も怒ってなかったみたいだし。それに、あっちの世界じゃ私はまだ結婚できないけど、この時代じゃ十代前半でとか普通なんでしょ?」
「とわ様が居た所にはそう伝わってるんですかい? おいらも人の世には詳しくないんで、そりゃあ無いとは言いませんが、流石に子を持つには早い方だと思いやすよ?」
「えっ」
「えっ」

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目次

  1. 実家に帰らせていただきます
  2. 父親
  3. Never come true
  4. 貴方だけのお姫様
  5. 言い訳できない
  6. ましな方の地獄
  7. 一角の甪端
  8. 溺れていたのは
  9. 一緒に帰ろう

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