宇宙混沌
Eyecatch

第3章:誓約は免罪符にはならない [3/3]

「理玖があんなに怒ってるの見るの二回目くらいかも」
 パーティーはそのまま微妙な空気で終わった。理玖は「今日は寝ないから」と言って、井戸を見に行った。夜中に何かあれば起こしに来てくれるらしい。
「最初はどんな?」
 草太パパ達は寝る前にはマンションに帰るけど、その前に二人で少し話をする。
「私を狙ってる妖怪が居てさ。あ、いや、逆か。仕事――実は理玖が依頼人だったんだけど――それで退治をしようとしていた妖怪が居て。理玖と二人で居た時に現れて、その時も理玖は私を庇って怪我して……。せつな達が私の刀を持って駆けつけてくれて、いざ退治、と思ったんだけど、理玖がキレて自分で首落としちゃったんだよね」
「出てくる単語が全部物騒だなあ……」
 まあ戦国時代だもんね、とパパは苦笑する。
「デートを邪魔されて怒ったってこと?」
「んー、よくわかんない。理玖がいつから私を好きなのかも知らないんだよね。本人もわからないかもだけど」
「もうちょっとちゃんと馴れ初め聞いて良いかい?」
「あ、うん。最初は私が道に迷ってて、理玖も迷ってたんだ。本当かどうかわからないけど」
 その時から妖怪だとは匂いで解っていた。だけど、完璧と言って良いほど整った顔に、どこか不完全な印象を受けた。今ならその理由が解る。
「理玖は海に出たいって言ってたから、匂いを辿って川まで連れてってあげて」
 当たり前のように掴まれた手には体温が伝わってこなかった。死人のようでびっくりしたけど、その無邪気な様子が子供みたいで可愛かった。
 懐かしいなあ。昔というほど前ではないけど、遠い過去のように思える。
「私はそのままピクニックにしようと思って。折角だし一緒にどう? って、その時あげたのが林檎なんだ」
「へえ。こっちから持って行ったやつ?」
「うん。戦国時代の林檎って、食用じゃないんだよ」
 だとしても、たかが林檎を過ぎた施しと、寂しい目で空を見上げる横顔がまるで絵画のようだった。
「理玖は素直すぎるんだよ。愛されたら愛し返すし、嫌われたら嫌い返す。その上嘘をつくのも下手だから、さっきみたいな風になっちゃったんだけど」
「そっか。あれは本心なんだね」
「うん。理玖は思ってることそのまま口にしちゃうけど、多分言葉にするまでに沢山たくさん考えてるよ。時々難しいこと考えすぎて、何喋ってるのかよく解らないもん」
 私が苦笑すると、パパも微笑んだ。
「でもそういうところが好き」
 私には理玖の考えていること、思想、信念、それらの半分も理解できていないと思う。だけど、理玖が一生懸命考えて出した結論なら、私はそれを信じるだけだ。
「子供が居るって判った時、せつな達にも『理玖に流されたんじゃないか』って心配された。実際、怪しくてお金持ちの綺麗なお兄さんって感じだったんだよ、最初は。正体も結局、敵の分身だったし」
「それでもとわは信じたんだね?」
 私は頷く。
「理玖の言葉以上に、理玖の行動は嘘つかないよ。みんな理玖がどれだけ私に尽くしてくれて、どれだけ傷付いたか知らないからそう言うだけ」
「信じるよ」
 最後の方、震え出した声に被せるようにパパは言った。
「愛は誓っても良いって、彼言ってたしね」

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