第3話:誓約は免罪符にはならない [1/3]
「とわ達遅いね?」
「雨も強くなってきた。少し見てきます」
私はとわ達が通ったであろう、いつもの見回り経路を辿った。僅かだが、二人の匂いも嗅ぎ取れる。
しかしそれは骨喰いの井戸で突如終わった。考えられることは一つ。井戸に落ちた。そして令和へ飛ばされた。
「とわ! 理玖!!」
井戸の中を覗いて叫ぶ。私の声が反響しただけだった。
「二人の結婚を祝って~」
「「「「「乾杯!!」」」」」
「ありがとう、みんな」
萌さんも到着し、宴が始まった。
「そろそろ二人の馴れ初めでも聞こうかの」
「さっき言ってたけど、待ち伏せナンパって本当?」
おじいさまと草太に詰め寄られる。
「ちょいと事情がありまして……。でも殺生丸様には黙認されてましたよ!」
まあ、どうせ何も付いていない傀儡と油断していたからだろうが。
「あ、殺生丸って私の血の繋がってるパパのこと。前にも言ったっけ?」
とわ様が何度目かの注釈を付ける。
「そっか。向こうのお父様は認めてるんだよね……」
「まあ父上は放任主義だし、妖怪の中でも結構尖った価値観してるっぽいから~」
「とわ様それ逆効果です」
草太の顔の皴がどんどん深くなるのを見て、とわ様の話をやめさせる。
「でも確かに、馴れ初めって言われると困るな。そういや私、結局理玖が私の何処を好きなのか聞けてないし」
「おいらにとわ様の嫌いなところなんてありませんよ」
「答えになってない!」
「告白はどっちからしたの?」
芽衣が身を乗り出して訊く。
「とわ様ですよね」
「あれはそういう意味じゃないって! likeだよlike!」
「そうじゃないかと思ってやした。とわ様からおいらのこと好きだって言ってもらえるの、顔くらいですからね」
「それはお姉ちゃん酷いんじゃない?」
「だって面と向かって言う機会無くない!?」
「おいらは言ってるじゃないですか」
床の上とかで、と思い出して自分も大概だなと思った。とわ様も顔を赤くしている。芽衣の前でこの話はまずい。話題を変えようと頭を捻っていると、萌さんが口を開いた。
「じゃあプロポーズも理玖さんからなのね」
「プロポーズ……」
求婚の意味か? ここでは。
「……そういえばしてないしされてないな……」
とわ様が呟いた。
「え? じゃあなんで結婚しようってなったの? 祝言も挙げてないんだよね?」
草太がわざとらしく首を傾げた。目が笑っていない。
「芽衣」
萌さんが娘に声をかける。
「ちょっと早いけどデザート切りましょ。手伝って」
「うん……?」
このタイミングで? と腑に落ちない表情ながらも、芽衣は萌さんに連れられて居間を出る。
おいらは覚悟を決めた。先手を打っておく。
「腹の子に障るんで、とわ様も席を外してください」
「理玖だけの責任じゃないし、私も一緒に居るよ」
「ちょっと、そういう庇い合いされると怒るに怒れないじゃん」
草太は髪をぐしゃぐしゃと掻き回す。おばあさまが食事を続けながら呑気に言った。
「草太は怒り慣れてないものね」
「一応怒りの沸点は超えてるんだけど、殴ったり怒鳴ったりするのは暴力だし、僕の気持ちの問題だということも解ってるし……」
「そういうのおいらにもありましたよ。おいら愛し方がわからなくて、最初はとわ様のこと殺そうとしてましたからね」
「やっぱり殴っても良い?」
「好きなだけ」
殴りやすいようにそう言ったのだから。間に割り込んできそうなとわ様のことは、おじいさまに預ける。
「パパ! 私だって嫌じゃなかったからこうなったの! 理玖のこと殴るなら私も殴って!」
「いや流石にそれは」
「半妖だから別に平気だよ!」
草太は再び頭を抱える。唸りながら問うた。
「……殺生丸、だっけ。とわの本当のパパはどうして理玖さんのことを認めたの? 流石に戦国でも婚前交渉は怒られるでしょ?」
「それが解れば苦労しないよ。理玖が誠意見せたからかな?」
「誠意?」
「貢ぎ物と、あと、いつでもおいらを殺せる状態にして、悪意が無いことを示したというか」
「何それ戦国武将っぽい」
「武将じゃないですが戦国なのはそうですね……」
「戦国武将もそんなことしないと思うけど……」
♥などすると著者のモチベがちょっと上がります&ランキングに反映されます。
※サイト内ランキングへの反映には時間がかかります。