宇宙混沌
Eyecatch

第5章:言い訳できない


「口を[ゆす]いできます。あと、おいらの食事は用意していただかなくて結構です。人間の食事は食えない物が多くて。腹減ったら自分で調達できやすし」
「わかった。せつながごめんね。今日、ちょっと色々あって」
「構いやせんよ。寧ろお義母[かあ]様や殺生丸様に受け入れていただけた方が、奇跡みたいなもんで」
 自分とせつなの頭を冷やす為にも、どちらか一方が外に出た方が良い。そう判断して、屋敷の前で仔犬をあやしていた奥方に声をかけてから村を目指した。水は自分でも出せるが、ここも敢えてだ。
「理玖」
「とわ様。追いかけて来るなら先に言ってくださいよ。走っちゃいけやせん」
「そうだった」
 井戸の水を汲み、指と口の中の血を洗う。怪我をしても人間ほど苦痛は受けないが、おいらの体は治りが遅い。少量でも薬はよく効くので、あれば問題無いのだが。
「血、止まらないの? 楓ばあちゃんに薬貰おうか?」
「このくらいなら放っておいても大丈夫ですよ」
 すぐには戻りづらくて、そのまま村をぶらぶら歩くことにした。
「今回はこれで良いけど、二人目以降も毎回里帰りだと大変だね」
 急にそんな事を言われて、反応に戸惑う。
「とわ様、まだ一人目も腹から出てきてやせんよ? なんだか急に積極的になりましたね」
「あっ、違う、変な意味じゃなくて……」
「ではどういう意味です?」
「その……私もまた海に出たいなって。理玖はもう辞められないでしょ、海賊」
「辞めようと思えば辞められますよ。伊予の国がどうなるかは知りやせんが」
「ああ、そう……。でも私、海賊の仕事してる理玖が好きだよ。立派だと思う。だから、一緒に……」
「とわ様……」
 おいらは照れた顔のとわ様を抱き寄せて、胸に顔を埋めさせた。
「おいら、とわ様や御子のことを守れるくらい、強くなれるよう精進しやす」
 でないと、今のおいらの表情[かお]を見られちまう。優越感に浸った、歪んだ笑いを。
「うん! そしたらずっと一緒に居られるね」
 とわ様の心はおいらに向いている。あんなにせつながとわ様を想って喚いた後でもだ。
 おいらが丸め込んだと言われればそうかもしれない。しかしこの分なら、とわ様は離れている間もおいらのことで頭がいっぱいで、戦えるようになれば頼まなくても西に来てくれる筈だ。
 沈め、沈め。おいらの海は優しく貴女を抱くだろう。その肺腑を水で満たすまで。

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目次

  1. 実家に帰らせていただきます
  2. 父親
  3. Never come true
  4. 貴方だけのお姫様
  5. 言い訳できない
  6. ましな方の地獄
  7. 一角の甪端
  8. 溺れていたのは
  9. 一緒に帰ろう

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