宇宙混沌
Eyecatch

第5章:言い訳できない


「――ということで、暫くお別れするのが良いでしょう」
 おいらはとわ様の襟元を整えながら、大事な話を締め括った。とわ様は何か言おうとして口を動かしたが、その言葉は結局聞こえない。やがて、先程言おうとした事とは違うであろう言葉を口にした。
「うん、そうだね。寂しいけど……」
「寂しがってくれるんですかい?」
「そりゃそうだよ~。せっかく夫婦になったのに~~~」
 子供の様に駄々をこねるとわ様に、もう一度口付けようとして、何か違和感を感じた。
「?」
「どうしたの?」
「いえ……」
 何だろう、今一瞬、ぷつりと何かが切れた様な感じが……。
「何でもありやせん」
 気のせいだろう。そう思い、その後は他愛も無い話を続ける。一刻[いっとき]ほど過ぎた頃、とわ様が顔を明るくした。
「みんな帰ってきたみたい! あ、おかえり。せつなも一緒だったんだ。って……」
 とわ様がまだ喋っている隣で、おいらは飛び込んできたせつなに、いきなり殴り飛ばされた。
「せつな! 八つ当たりはダメっ!」
 続いて入ってきた奥方と小妖怪が間に入る。殺生丸はその後ろからゆっくりと落ち着いた所作で、とわ様の末妹を抱いて入ってきた。
「私は今でも反対だからな!」
「だから、反対するならそれ相応に筋の通った理由をくださいよ」
 口の中が切れた。唇の端から滲み出る血を指で拭う。挑発的な笑みを向ければ、せつなはさも悔しそうに顔を歪めた。
「……アンアン! アン!」
 殺生丸の腕の中で、突然仔犬が吠え出した。振り向くと、こっちを見て唸っている。もしかして――
「ごめんねくろちゃん。びっくりしちゃったね」
 奥方が仔犬を引き取り、外に出た。おいらは指に着いた自分の血を舐め取って、座り直す。
「あんたが反対しようがしまいが、もう既にお腹に居る子はどうしようもねえだろ。それとも、とわ様に『殺せ』と酷な事を言うつもりで?」
「ちょっと理玖!」
 流石に言い過ぎたか。泣きそうな顔をしたせつなを見て、今度はとわ様に責められる。味方を得て、せつなは再度勢いづいた。
「そういう開き直った態度が気に入らない!」
「そうカリカリしなさんな。あんたがおいらを追い出す前には、西に戻ってやるから。犬の大将も殺生丸様も居ない今、せめて海だけでも誰かが面倒見ないといけねえし。でしょう?」
 最後は殺生丸に問う。小妖怪が喚いた。
「殺生丸様に話を振るな! 殺生丸様だって好きで子育てなんて――」
「邪見」
「はい」
 おいらはなるべく小さく溜息を[]いて、続けた。
「とわ様とよく話し合いました。おいらの今の力では、身重のとわ様やその御子を連れて海に出て、守り切れる自信がありやせん。殺生丸様やせつなに全面的に甘えることになりますが、とわ様が再び戦に出られるようになるまでは、とわ様を此処に残しておいら一人だけで海に出るのが良いでしょう」
「守れないのなら無責任に子供なんて作るな!」
「それは、まあ、言い訳できないんでいくらでも責めてください。とにかく、少しの間だけなんですから辛抱してくださいよ」
「西に戻るならとっとと戻れ」
「せつな~。戻ったら次いつ会えるかわからないんだから、もうちょっとくらい許してよ~」
「部下には一月で一旦戻ると言ってあるんで、長くてもあと半月ほどで居なくなりますよ」
「半月……」
「そうすればおいらの邪魔無しに、あんたが好きなだけとわ様の側に居られるじゃないですか」
 せつなは菫色の目を見開く。まだ何か言いたそうにしたが、とわ様にもお願いされた手前、今日のところはこれで止めてくれた。

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目次

  1. 実家に帰らせていただきます
  2. 父親
  3. Never come true
  4. 貴方だけのお姫様
  5. 言い訳できない
  6. ましな方の地獄
  7. 一角の甪端
  8. 溺れていたのは
  9. 一緒に帰ろう

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