宇宙混沌
Eyecatch

第5章:言い訳できない


「今日はせつなも来たのか」
 母上からくろを受け取ってご満悦のところ申し訳ないが、かくかくしかじかで、と事情を話す。
「――ということで、冥道石を使わせていただけませんか?」
「構わんぞ」
 お祖母様が石を掲げると、そこから飛び出す二本の糸が見えた。所縁[ゆかり]の断ち切りを構えて、そのうちの一本に振り翳す。
「おお、いつ見ても見事な太刀筋じゃ」
「太刀じゃなくて薙刀だって」
 お祖母様と母上の呑気な声を背に、触れた糸を切断する。なんとなく、今のはりおんの方だと感じた。
「よし!」
 もう一本。麒麟丸と理玖の縁を断ち切らねば。
「何!?」
 同じように振り翳し、刃が糸に触れる。なのに、全く切れる気がしない。
 一度離れ、再度振り下ろす。何故だ。刃はちゃんと糸を捉えているのに。
「斬ろうとしておらぬ」
 父上の声に、刃がするりと糸の上を滑った。
「んなっ……」
「切れねば良い、と思っている」
「そんな事は……!」
 思っていない、と思う。でも事実、糸は切れていない。
「理玖のことを認めぬか」
「父上は、認めたのですか?」
 答えない。それが答えだった。
「何故!? とわ[]のことを幸せにすると誓ったからですか? そんな上っ面の言葉だけで信用すると?」
「奴は誓わなかった」
「???」
 訳がわからない。幸せにすると誓わぬ夫を認めた? そんな馬鹿な話があるか。
とわがどう思おうと、奴は己が良しとする道を行くのだろう」
「そんな身勝手な!」
「そうだ、勝手だ。我儘を言えるようになっただけ随分とましになった」
「だからといって、そんな最低限のことも誓えないなんて……」
「せつなよ」
 重々しい声色の、父上の表情はいつも通り。しかしそこに負の感情は無いように思えた。
「理玖の選択の、とわにとっての是非を決めるのは、とわ自身だ」
 解らない。何をどうやったらあいつを認められるんだ。麒麟丸と繋がっているんだぞ? いや、だからこそ私が切らないといけないのか……。
「……うらああああああ!!」
 声を上げて勢いを付け、縁の糸に刃を振り下ろす。それでも糸は切れなかった。
 切れなけば良い、なんて。なんでそんなこと、思わなくちゃいけないんだ。
『理玖は理玖だよ』
 とわがよく言っていた言葉が思い起こされる。この糸を切れば、それは現実となるだろう。
 そうすればどうなる? 私は、もう理玖を理由[わけ]も無く責められない。とわと理玖が、互いに想い合って二人で決めた事だ。私が、とわに何かを言う資格なんて、無い。
「気付いたようだな」
 面白がっている風のお祖母様の声が聞こえる。私はそれを掻き消すようにまた声を張り上げたが、結局この日は糸を切る事が叶わなかった。

Written by

目次

  1. 実家に帰らせていただきます
  2. 父親
  3. Never come true
  4. 貴方だけのお姫様
  5. 言い訳できない
  6. ましな方の地獄
  7. 一角の甪端
  8. 溺れていたのは
  9. 一緒に帰ろう

キャラクタータグ