宇宙混沌
Eyecatch

第5章:言い訳できない


「では翡翠はせつなと一緒に――ん? あれは……」
 琥珀が仕事の説明の最中に視線を上げる。私も振り返ると、母上が阿吽の上から手を振っていた。母上のもう一方の腕にはくろ、阿吽の隣には父上と邪見が飛んでいる。目覚めない理玖ととわを、二人だけで家に残して来たのか?
「殺生丸様! いかがなされました?」
「せつなを連れて行く。良いか?」
 急な事に、琥珀は返答に詰まる。
「父上、お祖母[ばあ]様の所に行くのではないのですか?」
「そうだ」
「また次の機会ではいけませんか?」
「事を急ぐ」
 イライラしてきた。父上は良く言えば無駄話をしない。悪く言えば説明が足りない。
「あー、実はな――」
 見かねた邪見が、昨夜何が起きたのかを語った。理玖が眠った後、麒麟丸がその口を借りて話し始めた事。彼が言うには、麒麟丸とりおんに理玖の体を通じて現世の音が聞こえている事。とわに腹の子の事を報せ、休むよう助言したのは麒麟丸である事。
「それで、殺生丸様が礼として、[えにし]の糸を切る約束をされたのだ」
「ただの礼ではない」
 父上が補足すると、納得したように琥珀が手を打った。
「なるほど。理玖の口を動かせるならば、体の他の部分も動かせる可能性がありますね」
 それで私も、父上が無防備な二人を家に残してきた事に合点がいった。父上は、何かあれば麒麟丸が動くだろうと踏んでいるのだ。しかし……。
「それはつまり、麒麟丸が寝ている理玖の体を使って、再び良からぬ事を企てるかもしれないということですか?」
 翡翠が私が思ったのと同じ事を問う。琥珀は頷いた。
「あり得る話だな。わかりました。せつなをお連れください。翡翠、せつなの分まで頑張れよ」
「はい! それじゃ、せつなも頑張れ」
「ああ」
 私が阿吽に跨ると、皆で飛び立った。
「邪見。お前はとわに気付かれぬよう、屋敷を見張れ」
「ええ~置いてけぼりですか」
「麒麟丸との縁が切れれば、私達が戻るまであの屋敷はどうなる?」
「まだ寝ているかもしれない理玖ととわだけになりますが……そんなこと言ったら麒麟丸だって今すぐ変な気を起こすかもしれないじゃないですか!」
「では尚更だ」
 父上は邪見を振り落とす。
「うそ~ん。麒麟丸が出てきたらわし一人で相手しないといけないの~~~???」
 妖怪[ひと]使いが荒い父だ。しかし、父上が居なければお祖母様の所には行けないし、邪見一人に母上やくろまで守らせるのは心配だ。寝ている理玖や身重のとわを運んで行くのも大変だし、組み分けとしてはこれが最適だろう。

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目次

  1. 実家に帰らせていただきます
  2. 父親
  3. Never come true
  4. 貴方だけのお姫様
  5. 言い訳できない
  6. ましな方の地獄
  7. 一角の甪端
  8. 溺れていたのは
  9. 一緒に帰ろう

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