宇宙混沌
Eyecatch

第2章:父親


 何もかも受け身な姿勢で生きていられた頃が懐かしい。誰かに従属するというのは不自由かもしれないが、[あるじ]さえしっかりしていれば存外楽に暮らせるものだ。
 生まれ変わったおいらに、もう主は居ない。何処にでも自由に行けるし、その先で見聞きするものを覗き見されることも無い。
 するとどうだろう。己の意思で物を掴み続ける事が出来るようになった手に、所有欲が生まれた。真っ先に手に入れたくなったのは、勿論とわ様だった。
 とわ様の良い所は、おいらが何も言わなくても、おいらの船に残ってくれた所だ。あんなに妹や母の事で騒いでいたのに、とわ様はおいらを選んでくれた。ただ海が好きだっただけかもしれないが、形としてはそういう結果なんだから文句は無い。
 それで自然と独占欲も満たされた。欲というのは不思議なもので、一つ満たされるとまた新しく空っぽの器が現れる。次の器の名前は支配欲だった。
 とわ様は自覚が無いみたいだが、髪を伸ばすと殺生丸譲りの美貌が映える。あの[かお]さらしが見えるような着物の着方は、血気盛んな船の上では危険すぎるので早々にやめさせた。
 素直に従うとわ様に、彼女の本質を知る。とわ様は、しっかり自分の意思で行動する事を良しとして育てられただけで、本当は誰かに与えられ、守られ、流されて生きていく方が楽なのだ。そういう生き方がそこまで悪くない事を、おいらはよく知っている。
 [ああ]、やはり貴女は守られる側のお方だ。誰が何と言おうとお姫様だ。
 姫様。
 他の誰かに流される前に、おいらの海原で溺れてくだせえ。

鹿猪[かい]の旦那ァ、とわ[ねえ]さんのこと追いかけて行かないで良いんですかい?」
「大きな仕事も終わったし、船は俺達に任せて。なに、そのまま逃げたりはしませんよ」
「わかってるよ。ただとわ様の父上に会うのは気乗りしねえんだよな」
「旦那も人の子ですなあ。……って妖怪か」
「構わん構わん。見た目も中身も殆ど人間だ」
 麒麟丸の嫌な所ばかり受け継いだ。人間みたいな器の小ささ、執着心と支配欲の強さ。
 このままじゃ麒麟丸の二の舞だ。おいらは手で顔を覆う。
 でももう後戻りは出来ない。暫く距離を置いて落ち着いたら、約束通り東に帰らねば。

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目次

  1. 実家に帰らせていただきます
  2. 父親
  3. Never come true
  4. 貴方だけのお姫様
  5. 言い訳できない
  6. ましな方の地獄
  7. 一角の甪端
  8. 溺れていたのは
  9. 一緒に帰ろう

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