宇宙混沌
Eyecatch

第2章:父親


「な、なるほど。妖怪の血が濃く出ると、犬の姿で生まれてくるんだね……」
 私は新しい妹を抱かせてもらい、母上から話を聞いていた。
「とわ達は赤ちゃんの時から人の形になれていたけど、この子はのんびり屋さんみたい」
「へえ~。名前は?」
「人の形のお顔を見てから付けようと思って。今はみんなにはくろちゃんって呼ばれてるの」
「なんかそのままクロって名前になっちゃいそうだね。クロか……」
 私もせつなも、時間を表す名前だ。クロ、クロ……。何か時間に関係する、そういう言葉があったような……。
「あっ! クロノス!」
「くろのす?」
「外国の、時を司る神様の名前だよ。思い出しただけ」
「クロノスか……」
「殺生丸様? ちょっと格好良いと思ったかもしれませんが女子[おなご]につける名前としてはぶへっ」
 殴られた邪見に苦笑する。妹は大人しく私に撫でられていた。警戒心の薄い子だなあ。私が姉だって解ってるのかな?
「それより、急に帰ってくるなんてどうしたの?」
「ああ、それが……その……」
 私はせつなを見る。すっかり頭から抜け落ちてたけど、さっきからチラチラと私のお腹と父上の顔を見比べてるから、きっと匂いでバレてる。そして父上は、相変わらずの無表情。でも絶対気付いてるよね?
「……赤ちゃんできちゃったみたいで。生まれるまで此処に居て良いかな?」
 それを聞いた母上は飛び上がる勢いで喜んだ。せつなと邪見と三人で恐る恐る父上を見る。表情筋は一ミリも動いていない。
「相手は理玖だな」
「あ、はい」
 何か言ってくれ~と思っていたら問われる。
「妖怪と成した子は人形[ひとがた]で生まれてくるとは限らんぞ。母親の腹を突き破り、その生が母の死と引き換えの場合もある」
「そうだぞ! 殺生丸様はそれでりんを娶るのは最後の最後まで乗り気ではなかったのだ!」
「え、そうなの?」
 母上の話と食い違う。が、今はそれより自分の心配だ。
「そのくろ様が良い例じゃ。幸い体が小さかったから良かったものの……」
「毛むくじゃらが出てきた時は、肉の塊が出てきたのかと思ってびっくりしちゃった」
 あっけらかんと答える母、強し。
「理玖の妖怪の姿ってどんなだっけ……?」
「そういえば、見たことがないな」
 せつなと暫し思案。
「あっ……角……?」
 言うとせつなは噴き出す。
「男を知った体には余裕だろう」
「なんだよその言い方~」
 二人でわちゃわちゃしていると、父上が立ち上がり、近付いてきた。あ、やば、はしゃいでる場合じゃないよね。修行の旅とか何とか言って飛び出した娘が、十六にもならない内に子供を作って、相手も連れずに帰って来たらそりゃあ怒るよね。
「あ、あの、待って。理玖は仕事で後から――」
「くろを貸せ」
 伸ばされた手が頭を殴るかと思ったが、それは私の膝の上に向いていた。
「もうお散歩の時間? りんも行く」
 そうして両親と末の妹は仲良く出て行ってしまった。
「な、なんなんだ……」
「犬の育て方は流石の母上も知らないからな。最近はずっと父上がくろの面倒を見ている」
「へ~意外」
「くろ様の事を大変気に入った御母堂様が引き取ると仰られましてな。断るのであれば殺生丸様自らお世話せよとのことじゃ」
「私達なんか森に放置されてたのにー」
「あの時とは事情が違うだろ」

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目次

  1. 実家に帰らせていただきます
  2. 父親
  3. Never come true
  4. 貴方だけのお姫様
  5. 言い訳できない
  6. ましな方の地獄
  7. 一角の甪端
  8. 溺れていたのは
  9. 一緒に帰ろう

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