第2章:父親 [1/4]
父上の考えている事はよくわからない。
私は今、それを改めて感じている。
「そっ、そういえばさ~」
取って付けた様にもろはが口を開き、抱いていた黒い仔犬を私の父、殺生丸に渡した。
「そろそろこの子の名前もちゃんと付けた方が良いんじゃねえか? いつまでも仮の『クロ』呼びは可哀想だろ」
「そ、そうだな」
答えた自分の声は予想以上に上ずっていた。父上は無表情で仔犬の背を撫でている。
「どうでしょう、母上」
「そうだねえ」
迫り来る厄災――と言っては流石にまずいか――とにかく、今この家にやって来ようとしている人物に気が付いていないのは、鼻の利かぬ母上と、その匂いを知らぬ仔犬だけだ。邪見も然程鼻は強くない筈だが、父上や私達の様子から、既に何かに怯えている。
いや、何かではないな。父上がキレて邪見に八つ当たりする事を心配している。
「でも、やっぱりもうちょっと待ちたいなあ。良いよね? 殺生丸様」
「好きにしろ」
「そ、そうですか」
「あーじゃあ、アタシはそろそろ帰るわ」
「また遊びに来てね。かごめ様達によろしく」
「うんー!」
もろははずるい。私の家は此処だから、逃げられないんだぞ。
「りん」
「はい?」
父は唐突に母を呼ぶ。
「とわがじきに帰って来る。迎えに出てやれ」
「本当!?」
無邪気な母上は、その言葉通りに家の外へと駆けて行く。
「ああああああ、あの、殺生丸様」
邪見が痺れを切らして口を開いた。
「とわの事をどうするおつもりで?」
「どうもしない」
「と言っても、何にもお咎めなしという訳にはいかないでしょう」
ぎろり、と父上の視線が邪見に刺さる。邪見はそれきり黙り込んだ。
近付いて来るとわの匂い。それだけなら家族みんなで飛び出して抱き着くところだ。
問題は、それにくっついている、あのいけ好かない男の匂いに似た何かだった。
「たーだいまー! せつな! 父上! あと邪見……って」
母上に連れられて家に入って来たとわの視線は、父上の膝の上で止まる。
「うわっ! 父上がワンちゃん撫でてる! 飼い始めたの?」
「これ、何ということを言うか! この黒毛のお犬様は殺生丸様の三女。つまりはおぬしの妹君であるぞ!」
「へ?」
案の定、といった反応だ。
「ええええええええ!?」
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Written by 星神智慧