宇宙混沌
Eyecatch

第8章:溺れていたのは


「ちょっと良い?」
 とわ様の呼吸が落ち着いた頃、奥方が襖を開けた。おいらの膝の上からとわ様が跳び退く。
「ちょうど理玖さんに着物仕立ててたの。着替えあったかなと思って」
「その生地、殺生丸様にと思ったんですがね」
「殺生丸様はあの着物がお気に入りだから」
「はあ」
 あれは妖力で作っている衣裳だから、そうそう着替えないだろうとは思ったが、それをお気に入りと表現する奥方は流石、殺生丸の妻をやっているだけの事はある。
「とわも落ち着いた?」
「ごめん……また家壊した……」
「人に当たらなかっただけ偉い偉い」
 奥方はとわ様の頭を撫でる。こうして並ぶと母娘[おやこ]というより姉妹の様だ。
「そうだ! 母上~やっぱり父上が『貴様にとわはやれぬ』って理玖に言った~~」
「そうなの? 殺生丸様、とわに赤ちゃんができた事すっごく喜んでたよ?」
「あれ喜んでたの?」
「うん」
 とわ様と顔を見合わせる。なんでこの奥方はそんな機微が判るんだ。
「でも確かに今日はちょっと怒ってたね。でも、ちゃんと悪かったところ直して、謝れば許してもらえるよ」
「そうかなあ」
「そうだよ」
 本当か? 思わず突っ込みたくなったが、なんとか飲み込む。同じく解せない表情のとわ様を見て、奥方は笑った。
「理玖さんにも聞いてみようかな」
 一頻り笑った後、奥方はおいらを見る。
「理玖さんはとわのどこが好きなの?」
「おいらは……」
 あれ、出てこない。いや、挙げれば山ほどある。おいらに林檎をくれたこと、得体の知れないおいらを信用してくれたこと、「理玖は理玖だよ」と言ってくれたこと、おいらの欲を拒まなかったこと、磁器の様に白い肌――でもどれも、今求められている答えと違う気がした。
 目を覆うように額に手を当てる。
「何か答えないと誤解させちまいますね」
「何でも良いよ」
「おいらは、とわ様がおいらに何かを与えてくれるから、それを返したいだけなんですよ」
 でも、それって、おいらがとわ様を愛している事になるだろうか? とわ様が何もくれなくなったら?
「理玖……」
 再び奥方の笑い声が聞こえた。
「理玖さん、どうやったら殺生丸様に認めてもらえるか、ちゃんと解ってるから大丈夫だよ」

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目次

  1. 実家に帰らせていただきます
  2. 父親
  3. Never come true
  4. 貴方だけのお姫様
  5. 言い訳できない
  6. ましな方の地獄
  7. 一角の甪端
  8. 溺れていたのは
  9. 一緒に帰ろう

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