宇宙混沌
Eyecatch

第8章:溺れていたのは


 父上はそのままくろを抱いて家に帰ってしまった。
「理玖、立てる?」
 残されたとわが理玖の体を支えようとする。
「身重のとわ様に体重を預けるわけには。放っておいてください」
「そしたら居なくなっちゃうでしょ!」
 理玖から伸びる糸が見える。二本ある。一つはきっと、まだ切れていない麒麟丸とのもの。
 そしてもう一つは、とわの体に絡んでいた。
「……仕方ないな」
 とわの反対側から、腕を掴んで立ち上がらせる。
「逃げるなよ。父上もそう言っただろう」
「はいはい。今度は軟禁ですか」
「そりゃそうなるよ! なんでこんなことしたの?」
 とわと二人で理玖を支え、歩き出す。
「おいら麒麟丸なんですよ」
「どういうこと?」
「麒麟丸の記憶があるんです。それから、おいらが寝てる時に麒麟丸が出てくるらしくて。下手したらまた何もかもあいつに見られてるかもしれねえ……」
「父上と私は知っていたんだが、お前達のことを思って黙っていた」
「すいやせんねえ、勘が良くて」
「それとお腹を刺した事が繫がらないんだけど……」
「麒麟丸に痛い目見せてやろうと思って」
「でも麒麟丸、理玖が寝てる時しかわからないって言ってたよ?」
 本当かどうかわからないけど、ととわが補足する。なんだ、とわも知っていたのか。
 理玖は足を止めて額に手を当て、特大の溜息を吐いた。
「おいら刺し損じゃねえですか」
「早まって得する事など無かったな」
 ほら、と理玖を突き、再び歩を進める。
「ていうか、どうして父上とせつなもこの事知ってたの?」
「父上は理玖が酒を飲んで寝ている間に、麒麟丸と話したらしい。私は父上経由で、麒麟丸に縁の糸を切るよう頼まれていた」
「なるほど」
「りおんの方は切れたんだが、麒麟丸の方はまだなんだ」
 私は薙刀を抱え直す。
「今なら切れる気がする」
「姫様の恨みはそんな希薄なものなんですかい?」
「勘違いするな。繋がっていても誰も得しない。麒麟丸でさえもな」
「私は赤ちゃんのこと教えてもらって、助かったけどね」
「でもせつなの仇なんですよ?」
「それはそれ。これはこれ」
 とわは理玖に笑いかける。
「理玖は理玖だよ」
 先程の父上の言葉の意味が解った気がした。理玖ととわの縁の糸が、とわの言葉でより一層絡んだから。
「ありがとうございます」
 こちらの糸は切れないな。絡まりすぎている。
「じゃあお願いしやすよ」
「ああ」
 私は一旦理玖から離れる。狙いを定めて、冥道と繋がる糸を断ち切った。

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目次

  1. 実家に帰らせていただきます
  2. 父親
  3. Never come true
  4. 貴方だけのお姫様
  5. 言い訳できない
  6. ましな方の地獄
  7. 一角の甪端
  8. 溺れていたのは
  9. 一緒に帰ろう

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