第2話:楽園喪失 [3/4]
「式挙げるなら着物用意しなきゃね」
カップを空にしたおばあさまが言った。
「それなんだけどさ、やっぱり神社じゃなくて、ホームパーティーみたいなので良いよ」
「花嫁衣装着なくて良いの?」
「歳を誤魔化せば、写真屋で撮ってもらうこともできるんじゃないか? というより、僕達の為にも着てくれないかな」
「そういうことなら……」
とわ様は薄っすらと頬を染めておいらを見る。
「でも式自体は仰々しくなくて良いよ。なんかちょっと今更感もあるし」
「とわがワイワイやりたいならそうしよう。今夜は萌も早く帰ってくるし、芽衣には塾を休むように言うよ」
「じゃあ買い物に行ってこようかしらね。何食べたい?」
「えっとねー。まず飲み物なんだけど、理玖はお酒飲めないから――」
とわ様が料理のリクエストを出した後、ぽつりと付け足した。
「それから、林檎」
「林檎?」
「うん。あのさ、理玖は人間の食べ物あんまり食べられないんだ。果物多めに買ってきてくれると助かる。葡萄以外で。林檎は必ず入れて」
「食事も昨日摂ったところなんで大丈夫ですよ」
「妖怪って寝たり食べたりしなくても平気なの?」
「おいらはどちらも三日に一度くらいですね。あと自分で狩れやすし」
「いや、仮に街中に食べられる妖怪が居たとしても、刀振り回せないから。あと空飛んだり物浮かせたり瞬間移動も大騒ぎになるから絶対やめてね」
「なるほど……。ではお願いします」
「もしもし。日暮芽衣の父です。お世話になっております。家庭の事情で今日の授業は休みますので――」
草太が塾とやらに電話をかける。おいら達はそろそろ手持ち無沙汰になっていた。
「理玖の着替えも用意しなきゃ。流石にその格好は浮いちゃうよ」
「だから引き籠もってようと思ってるんですけどね」
「いつ帰れるかわからないんだし、少しはこっちに慣れた方が良いよ」
船に残した部下達のことが心配で、心配しているだろう向こうの家族のことが気掛かりなのは、とわ様も同じだろう。だが、今はなるようにしかならないか。
電話を終えた草太が、とわ様に声をかける。
「芽衣はもうすぐ――」
「お姉ちゃん!」
「あ、来た」
居間に髪の長い少女が飛び込んでくる。とわ様の姿を見て、泣き出した。
「うわーん。本物~~」
「本物だよ~」
芽衣はとわ様に抱きつく。その肩越しに、おいらの顔を見た。そして目を見開いて泣き止んだ。
「はじめまして」
「はじめまして」
言われたのでそう返す。
「この人がお姉ちゃんの旦那さん?」
「そうだよ~」
「ハァ!?!?!?」
耳元で大声を出されたとわ様が、思わず芽衣を突き放す。
「声大きい……」
「ごめん……。想像の百倍かっこよくてびっくりしちゃった。お姉ちゃんアイドルには興味無いって言ってたのに~」
「理玖はアイドルじゃないよ。お姉ちゃんの旦那さん取らないでね!?」
「流石に取らないよ。でも」
芽衣はポケットから四角い板を取り出した。
「写真はいっぱい撮らせてもらうね」
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