第2話:本当の姿 [4/4]
「えっと、どちら様?」
「竹千代だろう?」
「竹千代!?」
「とわは相変わらず鼻が悪いんだぞ」
「そんなことないよ! っていうか、ちょっとジュリアン君に似てない?」
「あいどる、だったか?」
「なんなんだぞ、それは」
昼食の席。竹千代は人の姿のまま現れた。このまま本番までずっと続けるらしい。
「本番で力尽きて狸に戻らねえようにな」
「お前と一緒にするんじゃないぞ」
竹千代はいつもの倍量食べて、部屋に戻る。体力温存の為に仕事は免除されているらしい。
「それにしてもイケメンだよね。あれ? でも変化で顔が選べるなら、世の中の妖怪達は皆美男美女の姿にならない?」
「変化には二種類あってな――」
向かいの席ではせつながとわに妖怪の変化について説明している。
「一時的なものと継続的なものがある。竹千代が大きくなって空を飛んだりするのは一時的なもので、そっちは姿形を選べるというか、意図通りの姿に化けるのが目的だ。但し集中せねばならんので長くは保たない」
「ふむふむ」
「継続的なものは、父上が人の形になっているのがそうだな。妖力が有り余っているなら話は別だが、継続的に行う故、あまり見目に凝る余裕は無い」
「父上は妖力が強いから、美男子の顔を造ってるの?」
「いや、お祖母様にそっくりだし、私達にも受け継がれているから、あれは素の顔なのだろう……」
「すご。さっきの竹千代のはどっち?」
「継続的な方じゃないか? 匂いというか、雰囲気が普段の変化と違うだろう?」
「なるほど。勉強になります」
とわはそう言うと、アタシを見た。
「さっきからずっと黙ってるけど、どうしたの?」
「えっ!? いや別に……。ちょっと寝不足でさ」
「双六のやりすぎか」
「そうそう」
せつなの意味深な言い方にヒヤヒヤしつつ頷く。とわが怪訝そうに眉根を寄せたことで、アタシは思い出した。
「そういえば。とわがこの前から怒ってたのって、明日の仕事が色仕掛けだからか?」
「そうだよ。誰に聞いたの?」
「竹千代に。あいつその為にあの姿練習してたんだぜ?」
「なるほど、双六ではなく床の練習をしていたのか」
「ええっ!?」
「ちがっ、違うから!! それは本当に違うんだって!!」
にやつくせつなと、目を輝かせるとわを交互に見て訴える。わかったわかった、とせつなが手をひらひらと振った。とわはハッとする。
「ってことは、私が怒ったから理玖の代わりに竹千代が行かされるってこと? 悪いことしちゃったな~」
「いや、竹千代は理玖が駄目だった時の二番手だって言ってた。それでさ、旦那がそこで終わらせると思うか?」
「思わないな」
せつなは推理を披露する。
「竹千代も美人だったが、理玖と比べるのは酷だろう。とすると、その妖怪を退治するには美しさだけでは駄目だということだ。例えば、襲い易さ等が必要なのかもしれない」
「理玖は隙が無いし、妖怪には『妖怪だ』ってすぐバレてるもんね、いつも」
せつなは頷く。
「理玖は完全に押し隠すには妖力が強すぎる。警戒されて、或いは獲物と見做されなくて素通りされる可能性が高い。竹千代は理玖よりは人間に見えるだろうが、問題は戦闘能力の低さだろう。逃げるのは上手いから食われはしないだろうが……」
「仕留められなかったら三人目、もっとぴたっと向いてる人が必要だね」
とわは顎に手を当てた。アタシはせつなの目を覗き込む。
「心当たりあるだろ」
「ああ」
せつなはご馳走さまを言って立ち上がる。
「翡翠だ。妖力は無い。顔は整っている。腕はそれなりに立つ」
「せつなはそれで良いのかよ?」
皆で食器を片付けながら、せつなを心配する。
「翡翠のことだ。脱がずに済む方法を何か考えるだろう」
「いや、相手に無理矢理脱がされたらどうすんだよ」
「その時は比喩ではなく、文字通り食われるのでは? 人食い妖怪の退治だろう?」
「ああ……」
駄目だ、この仕事一辺倒の女は。
「そうじゃなくて~! 翡翠が他の女に色仕掛けとか嫌じゃないのか!?」
「私は理玖がそうするの嫌だよ。だから怒ってたの」
とわがアタシを宥める。せつなは鼻で笑った。
「一番嫌がっているのはお前だろう、もろは」
「えっ」
「竹千代が他の女と寝るのが嫌。わざわざ私の共感など求めずとも、はっきりそう言えば良い」
アタシは耳まで赤くなったのが自分でも解った。最早、にやにやしているのはせつなだけではない。
「へ~え。その話、詳しく聞かせてもらえる?」
「昨夜の詳細もな」
「絶・対・や・だ! アタシのことじゃなくて、せつなの気持ちが聞きたいんだよ!」
「私か。そうだな」
せつなも顎に手を当てて考える。細かいところがそっくりだよな、この双子。
「……寧ろ、あの歳で翡翠が童貞である事の方が少し心配だが」
「ああ……」
「せつなって、自分の気持ちより状況判断が優先するところ、本当に凄いと思う……」
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